第235話:幕裏からの狂奔の魔笛12
「ついに準決勝か……」
特別感慨も無い。
とりあえず呟いた。
それだけ。
「功を誇る」
ということはあまりしないアイスである。
周りからは、
「謙虚なお人柄」
と見られているが、単に周りに合わせているだけだったりする。
相手は傭兵のようだった。
手に弓を持ち、腰に剣を差している。
が、
「――――」
特別な彩ではないが、狂気に満ちた光が映り込んでいた。
それが何かは判断のしようもないが。
観客の熱気も最高潮。
全く相手を寄せ付けず完勝してきたアイスへの畏敬の念は留まるところを知らない。
アイスに言わせれば、
「おめでたい」
で済む話だ。
鬼一は相変わらず呵々大笑。
人の苦悩を蜜の味とするのは今更だ。
「はぁ」
溜め息。
「負けるというのも難しいですね」
「じゃの」
答える思念には皮肉がたっぷり乗っていた。
「さて」
スラリと鬼一を抜く。
間合いは少し遠い。
相手が弓手なら矢を弾くのは木刀より和刀が向いている。
ただそれだけ。
熱狂と狂乱。
その加熱の中で試合開始の鐘の音が鳴った。
アイスが結界を展開する。
相手方は弓に矢をつがえる。
「――アクセル――」
マジックトリガー。
一瞬聞こえたその呪文をアイスは聞き逃さなかった。
射出から着弾までの一瞬。
半ば本気で回避するアイスの側面を、超高速で通り抜けた矢がコロシアムの壁につき立った。
「わお」
魔術と弓術の複合戦力。
器用と言うほかないが、アイス以外にも三足のわらじを履いている人間も珍しい。
「ここで果てろ」
「善処します」
狂いの眼光はアイスを捉える。
アイスの真珠の瞳は、それを見つめ返してなお飄々と。
大物には違いなかったろう。
「さて」
スッと歩み寄る。
そんなアイスに矢が向けられる。
「――アクセル――」
射出。
加速。
「もう覚えましたよ」
切り払い。
「なっ!」
驚愕も当然。
アイスは、
「大道芸ですけどね」
としなやかに微笑んだが、
「良き弟子じゃ」
鬼一は満足げだ。
敵選手は弓を捨てて剣を構えた。
「使えるんですか?」
とは言う物の様にはなっている。
挑発のつもりでは無かったが、結果として軽んじてしまった。
「舐めるな!」
剣を振るう。
「――エアブレイド――」
また魔術。
気圧の刃で剣の刀身を伸ばす魔術だ。
アイスの……鬼一のアンチマテリアルで霧散されたが。
「っ!」
剣が襲う。
弾く。
襲う。
弾く。
「これは中々……」
アイスの苦笑を誘った。
「――フィジカルブースト――」
更に加速。
キキィンと剣と刀が謳う。
あらゆる意味で人外。
間合いすら切り裂く高み。
アイスは感嘆とした。
自身をここまで追い詰める人間も珍しい。
不遜だが実は伴っている。
此処まで来てまだリミッターを外していないのが良い証拠だ。
「っ!」
血走った目。
無自覚の殺意。
それらが複合すると、
「ドクン」
と敵選手の心臓が打ち鳴らされた。
「?」
訝しげになるアイス。
大凡当たりだ。




