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第231話:幕裏からの狂奔の魔笛08


「やっほーい!」


 レイヴが突撃してきた。


「…………」


 その額に手を当てて距離を取るアイス。


「抱きしめさせてよ!」


「趣味じゃない」


 そういう問題でも無かろうが。


「それにしてもアイス卿は優しいね」


「そのゲッシュを管理している猊下に言われれば立つ瀬もありませんね」


 皮肉も出ようという物。


「殺人禁止」


 アイスのゲッシュ……引いては唯一神教の教義。


 枢機卿ともなれば信仰心の厚い人物(と言えば語弊になるが)。


 当然教義には明るい(のが例外を除いて普通)。


 あまり波風を立てないという意味ではアイスの戦い方は模範的だ。


 それを誇るつもりも当人には無いが。


「優勝するよね?」


「順当に行きましたなら」


 肩をすくめる。


 オーバージェスチャー。


「というか本来なら猊下が出るべきでは?」


 ある種の無敵。


 アイス……あるいはアインを以てすら傷一つ付けられないという、


「何が何だか」


 と吐露してしまいそうな異常性。


 こめかみの幻痛に悩まされもする。


「私の場合は多分決勝まで不戦敗で勝ち進んじゃうから」


「あー」


 それはアイスも手に取れるようだった。


「多分、腹痛とかアクシデントで勝負不能には成るでしょうね」


 宜なるかな。


「アイス卿ならまだ優しい」


「レジデントコーピングの扱いに苦労するんですけど……」


 ジト目。


「ま、誰も気にしないって」


「それは予測と言うより楽観論の範疇では?」


 基本的に、


「憂い」


 という概念にとんと縁の無いレイヴ教皇猊下ではある。


「あはは」


 と笑う猊下がどこまで理解して生きているのかはアイスにも判断がつかない。


「理解したときにはもう遅いでしょうけどね」


 ともいう。


「次の対戦相手は大丈夫?」


「把握もしておりませんが」


 事実だ。


 トーナメントであるため次の敵を見定め批評することは出来るが……アイスはそれを怠っていた。


 油断。


 そうには違いないが、


「そもそも生きることが油断の連続」


 とも言える。


 別段ピリピリしたところで有益性が無い存在であるため、油断は不徳とイコールで結べない。


 その怪物性はレイヴもよく知るところだ。


「魔術師だよ?」


「はあ」


 ぼんやりと答える。


 それはもちろんのこと準々決勝に勝ち上がってくるくらいだから並外れた使い手ではあろうが……。


「曰く」


「曰く?」


「ゴーレムマーチ」


「ゴーレムマーチ?」


 巫山戯ているのでは無い。


 素で知らないのだ。


 リピートするような答え方も必然。


「ゴーレムをいっぱい作れるんだって」


「はあ」


 所謂、


『魔造人間』


 と呼ばれる。


 原義はともあれ、この世界では土人形を作り出して使役する使い魔の部類を指す。


 魔術としては普遍的だが、武闘会を勝ち昇ってきたのだ。


 何かしらの威力はあるのだろう。


「ふむ」


 控え室へ続く廊下の天井を見上げながら思案するが、


「是非もなし」


 と切って捨てた。


 あまり思い詰めるのも悪手だ。


 覚悟は持っていても、思考を袋小路する意味は無い。


「だいじょぶ?」


「だいじょ~ぶ」


 困惑気味な銀色の瞳。


 その同色の髪をクシャクシャと撫でた。


 明かりを反射して白銀に光る。


「ま、アイス卿は最強だもんね」


「望んで得たのは私の業ではありましょうぞ」


「小生のおかげじゃ」


「師匠には感謝しておりますよ」


 チョンチョンと柄頭を指先で叩く。


「さりとて神様も意地の悪い」


「不敬罪!」


「説得力が……」


 脱力。


 ポンポンと銀色の頭を叩く。


「まぁ何時でもクビになさって結構ですので」


「むにゃー」


 相も変わらず教皇猊下は平常運転らしかった。


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