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第230話:幕裏からの狂奔の魔笛07


 投げ飛ばされた勢い……宙を舞ったアイスであるが、器用に回転して立て直し軽やかに二本の足で着地。


 投げられる。


 そう認識した瞬間に自身もまた跳躍していたのだ。


 仮に敵選手が地面に叩きつけようとしていたら、その体勢の崩れの隙を狙って一撃入れていただろう。


 それを可能とするアイスであるし、察した敵選手の生半ざる状況判断の賜物だ。


 しばし視線で会話する。


 目の捉える視線を互いに読み合い、


「先手をどうぞ」


 と互いに意思疎通していた。


 しばし勘案。


 再度勁を練りながら相手方が尋ねる。


「剣を抜かないのですか?」


 至極真っ当な不平だろう。


『剣聖枢機卿』


 ただ剣の腕を以て魔族を討ち滅ぼす教義の体現。


 その奇蹟を見せないとされては武闘家として立つ瀬が無いのも確かだ。


「抜いて欲しいので?」


 挑発ではありえなかった。


 ただただ単純な……ソレは疑問。


「出来れば」


 謙虚な相手方。


「ですか」


 スラリと抜く。


 木刀の方を。


「真剣は使ってくれないのですね」


「殺しは御法度ですから」


 苦笑。


 アイスが浮かべれば愛らしい。


 剣聖とは呼ばれるが、知名度の半分はその甘いマスクによるアイドル性だ。


 剣を振るう美少女のカーディナル。


 夢一杯の存在。


 頭が砂糖菓子で出来ている人間の憧れではある。


 南無。


「では参ります」


「何時でもどうぞ」


 間合いが詰まる。


 濃密な武威がアイスから放たれる。


 三撃。


 プレッシャーによる幻の剣だ。


 二つを躱し、一つを防ぐ。


「さすがです」


 褒めながら実体の木刀を振るう。


 薙ぎだ。


 速度は上々。


 威力も上々。


 手の甲で迎え撃つ敵選手。


 その防御行動をすり抜けて、選手の側頭部に木刀がめり込む。


「がっ……?」


 不条理の一撃。



「魔術か?」


 そう疑われるのも無理はない。


 ただ単純に速度の問題で、


「剣を受け止めようとした拳を避ける様に軌道修正して防御を無力化した」


 だけのことだが、衆人環視ならびに敵選手にとっては、木刀が拳をすり抜けて選手を打ち据えたように見えたろう。


 その速度は無手の時より何段階か速い。


 剣を握って初めて本来の速度を得る。


 アイスにはソレが敵うのだ。


 とはいえ木刀ではまだまだ最奥に至れない身だが。


「達人が得物を選ばない」


 というなら、


「私もまだまだ修行が足りませんね」


 とアイスは答えたろう。


 実際に和刀……鬼一法眼を抜けば更に加速できるアイスだ。


 常識に迎合する気は無いらしい。


「まだ続けますか?」


 側頭部から血を流している選手だが、意識自体は明瞭。


「…………」


 鮮やかな色の瞳は戦意に満ちている。


「気骨は賞賛に値しますね」


 アイスの剣を見て怯まないのは天晴れと言えるだろう。


「!」


 加速。


 勢圏のぶつかり合い。


 互いに読み合い。


 有り得ざる未来予知にも似た幻覚の応酬。


 そこから最適解を導き出して激突。


 アイスは上段からの打ち下ろし。


 敵選手は急激に伏せて足払い。


 問題は、


「まぁ」


「っ!」


 その足払いが踏み潰された事だろう。


 重心を足低くに置いて、圧迫するように叩きつけられる足。


 結果、選手の足払いは徒労に終わり、


「えい」


 カコンと木刀が頭部を打ち据える。


「コレで宜しいか?」


 特に力を入れていない一撃。


 つまり、


「力を入れていれば?」


 そんな仮想を選手に提示したも同然だ。


「参りました」


 それは選手の理解するところとなった。


「あまりサービス精神とは無縁じゃの」


「勢圏のやり取りを理解できない客にとっては茶番でしょうね」


 全く以てと言ったところ。


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