第228話:幕裏からの狂奔の魔笛05
「ランララランララ、ララララララララ」
クラシックを口ずさみながらスイートルームの浴室に入るアインとレイヴ。
「結局何を狙っているのやら」
アインにしても底知れない相手だ。
当人は、
「暇潰し」
と強行に主張するが、
「だいたい想定した覚悟を超える問題事を起こす」
という観点でならアインは正当にレイヴを評価していた。
アインが神に見捨てられたのか?
レイヴが神に愛されているのか?
あるいはその両方か?
「面白くない」
アインの不機嫌も妥当だ。
辻斬りは武闘会の参加者を募って以降、行動を起こしていない。
燈色の瞳は気になったが、ここで語るべきでも無いだろう。
食人鬼……アンデッドの方は散発しているらしいが、こちらは教会の守備範囲だろう。
事情自体はライトから逐次報告が入っている。
アンデッドを滅ぼすのは致し方ないにしても、
「人を食うなは本末転倒だよなぁ」
とも思う。
人類とて他の生命を食べて生きている。
アンデッドが人を喰らうことを否定すれば、
「じゃあ人類はどうよ」
という提議もされる。
そしてソレについてアインは名論を持っていない。
道徳。
人間主義。
大切な人の大切な人。
反論の拠り所はあっても、
「詭弁だ」
との対照的な意見の突き刺さりも覚悟せねばならなかった。
アンデッドの暴挙を手放しで肯定はしないが、聞く耳持たず否定するのは思考停止とも捉えられる。
「難しく考えすぎ」
レイヴは言う。
裸体をアインに重ねて。
「だがなぁ」
アインは裸ですり寄ってくる教皇猊下のこめかみに拳を突きつけてグリグリ。
おおよそ枢機卿の範疇を外れた行いだが、ツッコミ役はここに居ない。
「あたた」
痛がっているレイヴではあるが、
「馴れ合い」
とみれば範疇だろう。
「教皇猊下としては如何様な判断を?」
「ま、審問官次第じゃ無いかな?」
人任せ。
他力本願。
「これが教皇猊下だからなぁ」
「そういうアインは枢機卿」
「書類上な」
知っているのは一部のエラーくらいだが。
「三回戦……楽しみにしてる」
「嫌な予感がするんだが」
「そっちは知らないよ」
「だいたい厄介事が発生するとお前の思惑が透けて見えるんだが……」
「そんなこと言われても」
あるいはそのためにアインとレイヴが出会ったのか。
「巻き込まれるこっちが良い面の皮だ」
とは過去何度もぼやいたアインの基本。
「しょうがないよね」
アインの皮肉にへこたれないのはレイヴの強みであったかも知れない。
「師匠はどう思う?」
「人生色々。男も色々」
「女だって!」
「一応自覚はあるのな」
「私を何だと思ってるんです?」
「一人ビッチ」
「むぅ」
不本意らしい。
アインの知ったこっちゃないが。
「嫌な予感はするがの」
鬼一もその点はアインと同一らしい。
使い倒されてるのはアインだけでは無い。
当然アインの腰に差さっている以上、鬼一も他人事ながら体験もする。
「重ねて他人事じゃがな」
とは人の悪さの証明だが。
「結果俺が苦労すると……」
「苦労してるの?」
剣術に禁術。
斬殺に消失。
「世界がまだ滅んでいないのはレイヴの功績」
アインはそう言う。
であれば敵対にしろ融和にしろアインはレイヴと出会ったろう。
星の廻りとして、
「懐刀」
と相成ったわけであるのだから。
「かか!」
大笑する鬼一。
何を思ってアインを鍛えたのか。
この状況を察したわけでもない。
目の前の熱した鉄に手を出さずにはいられない錬鉄師。
鍛え上げられた刀は銘を、
「アイン」
とも、
「アイス」
とも呼ばれるが、その切れ味の恐るべき足るや開いた口が塞がらないほどだ。
「なべて世は事もなし」
それを結論にされるのはアインにとって不服ではあった。




