表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
226/242

第226話:幕裏からの狂奔の魔笛03


 二回戦。


 三十二人による十六試合。


 アイスの次の相手は槍使いだった。


「ふむ」


 相手と向き合ってしばし思案。


 戦士。


 兵士。


 傭兵。


 おそらくその辺の部類であろう事は読み取れる。


 肉体も練られており、強壮さは手に取れる。


 間合いは少し離れた場所から。


 サイコロで中間の値が出たのだ。


「きさん、神様に嫌われとるんじゃないかや?」


 鬼一の皮肉。


 一回戦の魔術師との戦いで間合いを取られ、今の二回戦で槍の間合いに設定されれば、


「サイコロの出目が神の意思ならば」


 との鬼一の思惑も頷ける。


「まぁ嫌われることはしております故」


 アイスも中々へこたれない。


 一応枢機卿として仕事はしているが、


「不信心者の典型的見本」


 と自身を評するアイスである。


 無銭笑顔が得意な枢機卿であり、


「教皇猊下の使いっ走り」


 と自ら卑下するタチでもある。


「あまり良い予感がしないのも事実だね」


 鬼一にそう思念でアイスは答えた。


「ホロスコープの実状は?」


「さての」


 鬼一には難しい観念だ。


 陰陽道は修めているので天体魔術は範疇だが、星座占いは少し違う。


 アイスが教えられたパワーイメージも修験道を基礎に置くため、西洋魔術は門外漢ではあろう。


 四大元素程度は把握しているが、五行生剋もまた知識としてあって、


「どっちが正しいのか?」


 は提議するに足る疑問のはずだ。


 そんな議論を思念で鬼一としている間に試合開始の鐘が鳴る。


「ふっ」


 呼気が聞こえる。


 槍が伸びた。


 正確には、


「襲った」


 が正しいが、まるで間合いを貫き通すような洗練された槍術はしなやかに伸びるような印象をアイスに与える。


 一回戦とはまた別の意味で、この槍手も予選を勝ち上がってきた実力の持ち主であると認めざるを得ない。


 アイスはまだ剣を抜いていない。


「…………」


 ぼんやりとしながら半身になる。


 すらりと槍の穂先を躱した。


「っ!」


 槍の冴えは高度だった。


 そこに練られた膂力も。


 意思が手から槍に伝わり、不足の無い一撃であったはずだ。


 それはアイスも認めるところだが、


「それって前提条件だからなぁ」


 との様子。


 剣身一体。


 アイスの奥義であり、前提条件でもある。


 その練られた剣術は時に剣すら必要の無い領域に至る。


 槍のメリットは間合いの確保と先制攻撃。


 逆にデメリットは、一度突いたら、引き戻さねば次なる攻撃が出来ないこと。


 これが薙刀なら話は別だが、どちらにせよアイスの踏み込みは長柄の得物の安全地帯……即ち御手の近接に潜るを良しとした。


 こうなると槍の威力は無いに等しい。


「っ」


 驚愕が槍手を襲うが、


「今更か」


 とアイスは呆れる。


 間合いに入られた時点で槍を手放さない相手こそへっぽこだろう。


 その槍の柄を握る。


 合気。


 意思が手に伝わり、槍に伝わり、相手に伝わる。


「っ?」


 不可思議な光景だったろう。


 特に何もしていないアイスを前に叩き伏せられた相手選手は。


 観客もざわめく。


「さて、何人が理解してるかの?」


 鬼一のいやらしさも健在。


 アイスの腰に差さっているが状況把握は誰より明敏だ。


「別に秘匿義務があるわけでもありゃせんし」


 思念で答えて、槍手から槍を奪う。


「くっ」


 気を吐いて体勢を立て直す、


「……!」


 より疾く、アイスが手に持った槍を相手に突きつけていた。


 短く握った柄。


 相手の鼻先で光る穂先。


「賢明な判断を期待するや切であります」


 説得のつもりだろうが、どう捉えても脅迫以上では無い。


 とはいえ説得力だけは多分にある。


 槍を奪われて丸腰の相手。


 その鼻先に当の槍を突きつける。


 腰には和刀。


 間合いとしては実質的に支配しているも当然だ。


「参った」


 敗北宣言と同時に観客が沸いた。


「さすがは剣聖枢機卿!」


「そこまで有り難いかなぁ」


 何度目かの繰り返しになる自問だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ