第222話:国家共有武闘会12
「教皇猊下……」
サラリーマンは顔を引きつらせていた。
予選で一日が終わったため本戦は明日からだ。
他にやることも無いため茶をしばく四人。
アイス。
ソフ。
レイヴ。
サラリーマン。
「で、何の用?」
ホケッとレイヴ。
「ええと……」
しばし言葉を吟味し、
「ソフ様を当社に連れ戻したいのですけど……」
まぁそんなところだろう。
「駄目」
いっそ爽やかなレイヴだった。
「何故です?」
「武闘会の間は治療役員に専念して貰うから」
「ですか」
さすがに世界を支配する唯一神教……そのトップにはズケズケとは意見しづらいらしい。
「そんなもんか?」
がアインの心底だが。
「では武闘会が終われば……」
それに被せる様に、
「や!」
とソフの拒絶。
「私はブルーブルには帰らないんだよ!」
我が儘いっぱいだった。
「堪忍してくださいソフ様……」
サラリーマンも胃が痛くなる。
「あなたはブルーブルの看板なのですから」
「それはそっちの都合」
「給料が不足なら幾らでも相談させてください」
「そういう意味じゃないんだよ」
「ソフ様……」
中々頑固なソフだった。
死者蘇生。
ある意味での魔法の究極。
そして人類の悲願。
金看板も宜なるかな。
が、
「そんなわけで」
チョコレートを飲みながらアイスが言う。
「押し売りは勘弁願います」
「しかし……っ」
ピシッとサングラスに亀裂が走る。
サラリーマンの物だ。
「何か?」
交渉と言うには暴力的。
「いえ……その……」
アイス枢機卿の御業を理解できない。
それも確かに順当だ。
「そうでなくともソフが嫌がっているんですよ」
穏やかにアイスは言う。
「そこは自分の居場所では無いと」
「…………」
しばし思案。
沈思黙考。
そしてサラリーマンは問うた。
「ではソフ様の居場所は?」
「お兄ちゃんの隣!」
断言される。
ソフの言だ。
「お兄ちゃん……ですか?」
アインの事だが、今はいない。
いないというか、
「この場にはいる」
のだが、さすがにサラリーマンに明かす程度の情報でもない。
「で、ブルーブルとしてはどうするので?」
「それは本社の意向を重視します」
「それは教皇猊下の意に反すると捉えられても?」
「まさか」
降参のポーズ。
「そんなつもりは毛頭」
「ならいいのですけど」
チョコレートを飲むアイスだった。
「ソフ様はブルーブルの何が不満なんでしょう?」
「惨めなところ」
間一髪で返答するソフだった。
「ええと?」
困惑気味なサラリーマン。
「別に人の役に立ちたいわけでもないし」
「…………」
思案。
「そうはいいますが」
サラリーマンは言う。
「負傷者の治療を行なっているのでは?」
「自主的にね」
「自主的……」
「会社に言われて死者蘇生してお金を貰って恩を売る」
「…………」
「それとは違うでしょ?」
まこと以てその通り。
「だからこっちは自意識でやってるんだよ」
「むぅ」
別にソフは死者蘇生で給料が欲しいわけでは無い。
そう言ったも同然だった。
心境としては堅実。
なお人類愛に満ちている。




