第219話:国家共有武闘会09
「ひっ!」
魔術師が悲鳴を上げる。
その魔術の悉くを霧散されれば、それはまぁ悪夢だろう。
「降参しませんか?」
既に剣の領域。
斬殺は範疇外。
が、決してアイスは平和主義では無い。
死んだ方がマシだ程度のツアーは心得ている。
「――ファイヤー……!――」
「遅い」
鳩尾を突く。
「げはぁ!」
コンセントレーションの破壊。
さらに、
「お休みなさい」
首筋に木刀を打ち込む。
「っ」
気絶する魔術師。
そこに新たな魔術が襲う。
吹雪だ。
風と氷の津波。
その程度でしてやられるアイスでも無い。
アンチマテリアル。
まるで朝日に散る霧のように吹雪は千切れて消失する。
「なっ!?」
驚いている暇があるのだろうか?
そんなことを思う。
少し離れた場所だ。
「――エアエッジ――」
リリィから受け取っている魔力。
それはネックレスの精霊石に溜め込まれている。
それを消費して風の斬撃を放った。
魔術師の胸板を切り裂く。
あくまで肉と骨を、だが。
「痛みがどういう物か?」
それを魔術師はよく知らない。
一方的に攻撃を仕掛けて殲滅するのが魔術師のやり口で、剣や魔術に身を晒す戦士とは違い戦いに於いても安寧を求める。
結果、痛覚の耐性が無い。
心臓や肺には届いていないが、胸板と肋骨を切り裂かれたのだ。
コンセントレーションを必要とする魔術師には致命的。
殆ど退場も同然だ。
そこに戦士が襲いかかる。
アイスにでは無く魔術師に。
「南無阿弥陀仏」
十字を切る。
魔術師二人は決着がついた。
残るはアイスと七人の戦士。
剣。
槍。
矛。
斧。
弓。
盾。
色とりどりだ。
アイスが無力化した戦士もまた回復したようだ。
「やれやれ」
まず真っ先に矢が飛んでくる。
アイスの剣がブレた。
「?」
弾かれる矢。
アイスの手元には脱力した二振りの剣。
「何が起きたのか?」
それを弓手は覚っていない。
説明する意味も無いが。
さすがに参加者も剣聖枢機卿が次元の高い位置にいることは分かる。
まず真っ先の排除は通念だ。
魔術師も退場したため、この際横やりも無いだろう。
「ま、いいか」
アイスはそんな印象。
弓手は片手剣を腰に差して、弓を手に持ち矢を背負っている。
この器用さは、
「冒険者だろう」
程度は読み取れた。
ともあれ剣と斧を持つ二人の戦士がアイスを襲う。
「ふっ!」
「はっ!」
上段から振り下ろす……、
「っ?」
「っ!」
はずだった。
金属音。
剣が鳴く。
弾かれる剣と斧。
アイスは悠然と立っている。
尚且つ木刀はダラリと下げられていた。
その木刀が跳ね上がる。
強かに戦士の脛を打つ。
悶絶する戦士二人。
足を押さえて倒れ込む二人の頭部に木刀を打ち込んで黙らせる。
さすがにかち割りはしない。
出来ないわけではないが、
「教義に反する」
が尤もなところ。
「何だかなぁ」
気疲れ。
いっそ哀れな戦士たちだった。
「かか!」
大笑する鬼一。




