第217話:国家共有武闘会07
武闘会予選当日。
特に何がどうのでもなく、アインは高級ホテルで眼を覚ます。
特に意識することは無く、選択の少ない何時もの下着に何時もの服を着て、毎度は毎度で毎度ながらのいでたち。
黒衣礼服に鬼一を差し、ついで、
「ふむ……」
光学変身。
アイスとなる。
それから懐くレイヴと一緒にホテルの食堂に顔を出した。
「朝は軽い物を」
そう言い渡していたため、生ハムサンドとコーヒーが出された。
「うまうま」
とレイヴは食べる。
アイスは緩やかに。
ホテルマンたちは緊張していた。
サービスに不首尾があれば大問題に発展する。
レイヴは教皇。
アイスは枢機卿だ。
機嫌を損ねることを何より畏れなければならない。
別にアイスとしては、
「適当にくつろげれば良いんだが」
と云った具合だが。
レイヴの方は、
「立場上ね」
とのこと。
「…………」
二人揃って朝食を終えると、
「それじゃ遊びに行こう」
武闘会予選の当日とは思えない気楽さでレイヴが言った。
突発的な催しだ。
当然経済的にも熱狂する。
神王皇帝四ヶ国。
それぞれから武闘会を見に野次馬が集まる。
賭け事も行なわれるらしい。
「暇なんだな」
アイスの率直な感想。
でなければそもそも武闘会が成り立たないのだが。
閑話休題。
アイスとレイヴは喫茶店に入った。
普遍的な店だ。
特別高級でもなければ閑古鳥が鳴いているわけでもない。
アイスはチョコレートを。
レイヴは紅茶を。
それぞれ頼む。
「ん。美味い」
「だねぇ」
色々と満足らしい。
ついでにケーキを注文してつつく。
衆人環視の注目は痛いが、
「有名税」
と諦める。
「崇められるほど大層な存在ではないがなぁ」
「だねぇ」
台無しな二人。
元より文明の何たるかを知っているため、
「人類だからしょうがない」
との諦観もある。
知恵持つ身の哀しき性。
「何故人は知恵を得たのか?」
「さてな」
サラリと流してアイスはチョコレートを飲む。
「魔族に聞いた方が早いんじゃないか?」
「一理ある」
「有り得ん会話じゃの」
鬼一は呆れたらしい。
今更だ。
というよりアイスの人格形成の一翼を担っているのは鬼一なのだが。
そういう意味では、
「お前が言うな」
に相当する。
「さて、武闘会ね」
チョコレートを飲む。
「魔術ありか?」
「あり」
「武器は?」
「あり」
「死人が出るぞ?」
「ソフがいるし」
「…………」
その手があったか。
とは思っても云わず。
「アイスには関係ないかもね」
「だな」
特別なことではない。
むしろ道理だ。
「厄介な役を押し付けられる」
本音はそんなところ。
「アイス猊下!」
一人の少年が赤面して名を呼んだ。
「どうかしましたか?」
柔らかな笑顔を作って問うアイス。
「あの……武闘会に参加なされるんですよね?」
「ええ」
「頑張ってください! 応援しています!」
「あなたにも唯一神の祝福があらんことを」
クシャッと少年の頭を撫でる。
「恐縮です」
そしてパタパタと去って行く。
「悪党」
「お前が言うか」
どっちもどっち。




