第215話:国家共有武闘会05
「辻斬りか」
「です」
ケイロンを切り裂いた片手剣をヒュッと振るう。
血の飛沫が道を彩る。
赤い液体がひしゃくで水を掛けたかのように、弧を描いて、その赤を地面に鮮やかに染め上げた。
「貴方を探しておりました」
「光栄だな」
「某と渡り合える逸材はそういませんので」
「人斬りの台詞じゃねえな」
「そうではあるのですけど……」
よくまぁ殺人を犯しながら謙虚に振る舞える。
そんなことも思う。
「まぁいいか」
スッと半身になる。
手は剣に添えて。
居合いの形。
「では、参ります!」
片手剣を構えて加速。
疾風だ。
間合い。
空間。
それらが踏みつぶされた瞬間に、
「――――」
鬼一が解き放たれた。
神域の速度。
京八流が抜刀術。
溜抜。
打ち合うような金属音。
刀と剣が鳴く。
変則的にアインの剣がしなる。
力尽くで押し込める辻斬り。
「…………」
「――――」
互いに視線を見合う。
黒と燈。
加速。
鍔迫り合いをアインが嫌った。
纏わり付くように片手剣をなぞり、
「っ」
刺突。
狙いは胸部。
心臓や肺までは貫くつもりもないが。
体勢的に辻斬りは無理があった、
先までの鍔迫り合いで前のめりになっていたのだ。
刺突をバックステップでは避けられない。
剣を薙いだ。
刺突を打ち払う……、
「――――」
つもりだったのだろう。
その剣は空を切った。
アインの和刀は変則的に軌道を変えて辻斬りの喉を狙う。
加速。
さらにギアを上げて体半身になってソレを避ける。
「へぇ」
アインは感嘆とした。
「まだ速度が上がるのか」
賞賛の言葉だが、皮肉にも聞こえる。
「化け物ですね」
「互いにな」
どちらも否定の余地無い言葉だ。
鬼一が水平に振られる。
狙いは双眸。
燈色のソレ。
「……っ!」
剣で阻まれる。
攻守交代。
辻斬りの剣がアインを襲う。
袈裟切り。
素早く引いた和刀で受ける。
辻斬りの脚部が跳ね上がった。
狙いは股間。
男なら悶絶モノだが、
「…………」
アインは対処した。
骨盤の中に緊急避難。
どちらかといえば古典的な武術の手法だ。
鬼一の教えである。
「っ?」
隙が出来る。
刀で剣を押さえたまま、片脚の辻斬りを転ばせる。
チャキッと刀が突きつけられる。
「まだやるか?」
「遠慮しておきましょう」
「人を殺しておいて、自分は殺されないと思ってるのか?」
「ええ」
そこいらはあまりアインの理解の外。
辻斬りの方も説得するために言っているわけではない。
「警察に出頭する気は?」
「ありません」
「だよなぁ」
ヒュンと鬼一が風を切った。
涼やかに納刀され、チンと謳う。
「見逃すので?」
「同類になる気も無ければ警察に味方する気も無いな」
説得。
あるいは無力化。
出来はするが、一つアインには思案があった。
「お前。学院主催の武闘会は知ってるか?」
「ええ」
困惑しながら頷く辻斬り。




