第213話:国家共有武闘会03
「アイス卿!」
魔術学院は教会。
そこでアイスは頬を引きつらせていた。
信者がよってたかって押し寄せる。
神威の代行。
神の剣。
剣聖。
信者にしてみれば拝む対象ではあるが、アイスには虚像だ。
「何がありがたいんだか……」
「民衆なんぞそんなもんよ」
美しき師弟愛だった。
「あなたに神の祝福あらんことを」
無銭笑顔で信者をいなす。
「ありがとうございます!」
感動に打ち震える信者。
「ほとんどアイドルだなぁ」
実際にアイスは美少女だ。
シルクを思わせる白い髪。
パールを想わせる白い瞳。
顔の造りは嫋やか。
処世術の愛想笑いは万人を虜にする。
ここに天下無双の剣術が加われば、
「然もありなん」
と云った様子。
ここでも諦観が活きてくるが。
「アイス卿!」
教会には長蛇の列。
ここにリリィも加わっていた。
置き手紙を残してアインが行方を眩ませているため、
「神に無事を祈る」
がリリィに出来ることらしかった。
「アーゲー」
そんなリリィを祝福するアイスだったが。
「気苦労が絶えないんだよ」
字面とは裏腹に楽しそうなソフの思念。
一応背中を預ける仲だ。
アイスの事情を知る人間の一人。
当人はお気楽を地で行くが。
「お疲れですアイス猊下」
ライトはそんな労り。
赤い髪鮮やかで、赤い瞳が苦笑していた。
審問官でも数少ないアイスの背景を知る人間。
ある意味で、アイスを介してレイヴに振り回される人間とも言える。
「あー……疲れた」
教会の礼拝時間が過ぎると、アイスはレイヴの予約したホテルに顔を出した。
同室だ。
物理的に男女ではあるが、
「まぁな」
「まぁねぇ」
そんな二人であるため、十八禁には発展しない。
「神に祈る暇があるのか」
「台無しだよ」
至極真っ当なレイヴの反論だが、
「お前が言うな」
の天然色見本。
暇潰しに武闘会を開く。
かかる経費と、傷つく人間。
ついでに暴力の煽りようと言えば、
「慈しみの精神は何処に行った?」
もまた正論。
言って詮方ないのは自覚しているが。
「んで、結局食人鬼注意報はどうするんだ?」
「そっちは懸賞金を掛けました」
「なる」
武闘派の人間が集まれば、アンデッドにしろ辻斬りにしろ動き難くなるのも必然だ。
熟々、
「結果論」
だが。
「もしもーし」
アインはソフに思念を送った。
「なにだよ?」
「今夜もアンデッドを追うのか?」
「だよ」
「今何してる?」
「リリィのパスタ食べてる」
アインがいなくなれば一人分食材が減るのは事実。
「アンデッドの進捗は?」
「さて……だにゃ」
殆ど天敵だ。
相手方から近づくことは無いだろう。
「アイス卿はその辺どうなんだよ?」
「一応警戒はするが……」
「神罰の地上代行師」
「正義って何だろな?」
その辺りの納得はアイスですらも難しい。
教義に反するイコールが悪なら、も少し浮世は住みやすい。
「アイス卿で?」
「さてな」
その辺りは臨機応変。
「とはいえ」
脱力。
「辻斬りの方は放っておけないしな」
鬼一をして、
「剣の極み」
と言わしめる技量。
アインと互角に渡り合ったのだ。
無論アインは全力では無かったが、それは向こうも同じはずだ。
単純に警邏に回した警官の数だけ死体が積み上がる。
ソフのフォローが必要な場面ではある。




