第212話:国家共有武闘会02
「欠席裁判って知ってるか?」
「事後承諾のもう一つの名前だよね?」
人の悪さと悪い人間性を併せ持つレイヴの悪辣さ。
「…………」
アインとしては言葉も無い。
「国家共有武闘会……の」
神王皇帝四ヶ国の中心にある政治的空白地帯。
名を、
『国家共有魔術学院』
と呼ばれる都市国家(の様な物)。
「そこに武闘派の人間を集めて見世物にしよう」
そんなコンセプトの元、高度に政治的暇潰しとして開催されるらしい。
アインの知らないところで計画は進んでおり、なおアインの聖櫃の間への召喚と前後して、
「剣聖アイス卿が参戦する」
と公布されたらしい。
まさに欠席裁判。
なお魔術学院も武力を拠り所とするため、魔術師から傭兵、冒険者まで様々な人種がエントリーしているとか何とか。
「そこに出ろと?」
「うん」
一瞬の気後れすら感じない。
晴れやかな首肯だった。
剣聖アイス卿。
ぶっちゃけるとアインの仮面だ。
アイン自身はある種の究極。
禁術の使い手にして剣術の極致を覗く特級戦力。
そのままでは真っ当な生活もままならないため、本気を出すときにだけ鬼一の魔術で光学的に変身し、美少女アイスとなって武を振るう。
ペンネームの様な物だ。
実際にアイス枢機卿として行動すると、信者に感涙を滂沱させ、御本尊のように有り難がられる。
アインならびにアイスは宗教にのめり込むほど暇では無いので信者に祈られても誇らしい気持ちに成ったりはしない。
よって何事か起きなければアインはアイスのマスクを被らないが、それにしても今回は破滅的だ。
先述したように欠席裁判。
「武闘会に出てね」
と無邪気な邪気を振るう教皇猊下。
「此奴の何が有り難いんだろうな?」
などと不敬罪に身を染めざるをえない。
当然アインがレイヴの気持ちを斟酌できるように、レイヴもアインの気持ちを勘案できる。
ほとんど嫌がらせだが、
「アイス卿の剣が見たい」
は嘘偽り無く本音だ。
問題は、
「火中にあれば油を注ぎ、火無ければ着火する」
の精神だ。
世界の段取りを整える神域国の教皇猊下。
超法規的な人類のトップだが、基本的に俗物で無聊を嫌う。
「アイス弄り」
はその一環だ。
「とりあえず優勝してね」
「とりあえずの使い方を間違えてるぞ」
四ヶ国から武闘派を集めてお祭り騒ぎ。
そこに加わって踊る阿呆。
「とりあえず」
で優勝できるなら世話はないのだが、アインとしても強硬な反論は難しい。
そも自身の持っている戦力と釣り合う戦力ともなれば片手で数えられる程度だ。
剣聖枢機卿は伊達では無い。
その意味でレイヴの思惑通りではあるのだが。
「南無」
鬼一にとっては他人事。
元より、
「人生万事暇潰し」
だ。
「いいじゃないかの?」
煽る様な物言いだった。
「師匠は良いよな」
「きさんとて剣の振るい様は必須じゃろ」
「じゃろじゃろ」
鬼一の言にレイヴが乗っかる。
「武闘会ね……」
死んだ眼で遠い目。
「色々と考えることがあるんだが……」
「言ってみよ~」
「ソフの扱いとか」
「放っておいても死なないでしょ?」
教皇猊下の言葉とは思えない内容だった。
「アンデッドに辻斬り。ついでに学院のケイオス派。やること盛りだくさんなんだが……」
「だから戦力を学院に集めるんだよ」
「そのためか?」
「結果論」
晴れやかなほど清々しい言葉だった。
「ま、レイヴだしな」
その結論も既に何度目か。
ほとんどノリは、
「ゴルゴムの仕業」
の領域にある。
「勝てるよね?」
「へのつっぱりはいらんですよ」
瞳を伏せて茶を飲む。
レイヴの無茶ぶりは何時ものことで、そこを加味して最大戦力を具現するのがアイスの役目。
「どんな星の廻りかね?」
この世界は天動説だが。




