第211話:国家共有武闘会01
「で、なんぞ?」
学院の北。
ノース神国は宮殿。
アインは銀髪の美少女を半眼で睨んでいた。
愛くるしい瞳は髪と同色だが、その映している光は単純たりえない。
「俺は講義があるんだが……」
サボりと睡眠で臨む身分でいけしゃあしゃあではあるが、アインが魔術学院の生徒であることもまた事実。
とりあえず良いように使われている鬼一を通して思念チャット。
また良いように使われるアインであった。
なおリリィとソフは学院だ。
単純に距離の問題。
長い道のりを踏破したのではなく、禁術による距離の消去を行なっただけだ。
ある種の逆転的空間転移。
座標指定が必要なため、見知らぬ土地には行けないが、そを差し引いても過分と言って不足無い異能だ。
「どうも。アイン卿」
銀色の美少女はケラケラと笑う。
名をレイヴ。
この世界を支配する唯一神教のトップ。
教皇だ。
当人は、
「良くも悪くもお祭り事を起こす存在」
とアインに睨まれており、なおそれに対して弁解の意思を見せない困ったちゃん。
アイン卿と呼んだように枢機卿であるアインの直接的な上司に当たるが、人目の無いところでは威厳を嫌うタチとも言える。
アインの方も枢機卿として振る舞う気はないらしく、二人きりならレイヴを立てることもしない。
「有り難みがない」
という意味ではこの二人は極北に位置取る。
さて、
「頑張ってね」
「何をだ」
だいたい何時もの二人だった。
アインは自身を、
「トラブルメーカー」
と自認はしているが、
「概ね因子はレイヴに帰結する」
とも思っている。
結果煮え湯を飲まされたことは数知れず。
殺意の一つも覚えるが、実行に移す気力は無い。
「教皇だから」
でも、
「殺人が罪だから」
でもない。
もっと根本的に、
「自分ですら敵わない」
と知っているのだ。
アインやソフとはまた違う意味で無敵を体現する存在。
不条理の金属を鋳型に押し込めて像と為したようなジョークの産物。
アインは振り回される立場だが、さすがに何年も付き合えば諦観に片足突っ込むのも道理。
「で、何を頑張れと?」
どうせまた厄介事だろう。
そんな思想は正確に正当だった。
「国家共有武闘会」
こっかきょうゆうぶとうかい。
その声は正しくアインの鼓膜を打ったが、字面への変換に苦慮する。
「また厄介なことを言い出したの」
黒衣礼服の腰に差されている和刀……鬼一法眼が大凡の状況を把握した。
「なにそれ?」
真っ当な問いだったろう。
少なくともアインは知らない。
「高度に政治的な大衆向けのイベント」
二律背反を物ともしない表現。
これほど取りやすい揚げ足も無いが、
「まぁレイヴだし」
でアインは済ませる。
この辺の扱いは慣れた物だ。
「ぶとうかいを開くの」
「踊る方か?」
「戦う方」
舞踏会ではなく武闘会らしい。
「誰が?」
「アイス卿」
ぬけぬけとほざくレイヴ。
「熱でもあるのか」
と零すアインだが、だいたいレイヴの不当さ加減は見知っている。
これがレイヴで無ければ、まだしも救いは在ったかも知れない。
「その武闘会とやらにアイス卿を出す……と?」
「んだ」
コックリ頷くレイヴ。
紅茶を嗜む。
アイス卿。
唯一神教の枢機卿の一人だ。
特に、
「剣聖」
と呼ばれ、レイヴの懐刀として知られる。
こと武力による布教の名代で、異教と魔族への抗議行動の矢面に立つ。
その剣筋の鋭さは無空の高みに在り、
「剣聖枢機卿」
と称えられる唯一神教のヒーロー。
「で、その武闘会に出ろと?」
「うん」
「許可は?」
「取ってないよ?」
「…………」
天井を見上げるアイン。
意匠をこらしたデザインが見えた。
「また始まった」
だいたいアインとレイヴの関係はそんな感じ。




