第210話:物騒な巷17
「何をしている!」
声が響いた。
アインと人斬りは距離を取る。
「辻斬りか?」
警察だった。
とはいえ、人斬りは剣を、アインは刀を持っている。
どちらが辻斬りか分かった物では無い。
「っ!」
警察官は信号弾を打ち上げる。
天空に光が発生。
「お預けです」
人斬りは更に間合いを広げた。
「動くな!」
そう言われて動かないならもっと器用な世渡りをしている。
警棒を構える警官を、
「――――」
人斬りは一刀で切り伏せる。
「さすが」
とアイン。
そして人斬りは闇夜に消える。
「どうする師匠?」
「今宵はここまでじゃろ」
過不足ない意見。
「だな」
アインも賛成らしい。
「とりあえずソフに繋いでくれ」
「あいあい」
「どったのお兄ちゃん?」
「死者が出た」
「ははぁ」
大体ソレだけで伝わる。
「信号弾の元に来い」
「へーい」
今更な感じだ。
警察と教会が集結する。
アインは鬼一を鞘に収めて教会に身を預け、色々と案件に対して押し付ける気でいた。
ライトが来ればこっちの勝ちだ。
そして斬り殺された警官をライトが回収してソフが修復する。
アインは尋問を。
とはいえ、
「別に後ろめたいことも無いしな」
が本音で事実だ。
辻斬りの正体。
この場に居合わせた経緯。
スラスラと弁論する。
ライトの助言もあってすぐに釈放された。
「なんだかね」
黒い髪を弄る。
今は運動着だが、基本的なアインの服装は黒衣礼服。
黒一色だ。
喪服にも似る。
特別、
「死者がどうこう」
と云った様子も無いが。
「結局骨折り損か」
くたびれもうけ。
燈色の瞳はやけに鮮明だ。
人斬り。
辻斬り。
が、その夕日の光は純真にして潔白。
「人を斬る」
その一点の集約された思念は、
「根性がひん曲がるにも程がある」
と言わしめる。
鬼一も、
「久方ぶりに極みに出会った」
と賞賛するほどだ。
「で?」
「とは?」
「結局どうするんだ?」
「ふむ」
鬼一にもあまり青写真はないらしい。
「相手がこっちを認識したなら近い内にまた会うんじゃなかろうかの?」
「それはそれで迷惑だが」
「きさんの修行には丁度良い」
そんな鬼一。
師匠としての言葉。
事実人斬りはアインに抵抗してのけた。
そんな意味では、
「確かにな」
アインも同意する。
「少なくとも向こうはこっちを気にするじゃろうよ」
「命を狙われるのは俺なんだが?」
「構わんじゃろ」
呵々大笑する鬼一。
「師匠は気楽だな」
「元より気紛れじゃしの」
「それもどうよ?」
嘆息。
「アイン様」
人前であるため、
「猊下」
と呼べない審問官の心模様。
「何?」
「犯人の姿は見ましたか?」
「いんや」
瞳はオレンジだったが。




