第21話:国家共有魔術学院14
講義が終わるとアインとリリィに幾人分もの声がかけられた。その全てがいわゆる賞賛の声だった。
曰く、
「すごい!」
「やるね!」
「何処で練習したんだい?」
「私の研究室に所属しないかい?」
そんな絶賛と勧誘。
「面倒ですので」
アインはそう突っぱね、
「私はアイン様に従うだけです」
リリィはそう却下した。
そして寮部屋に戻る二人。
「夕餉は何にいたしましょう?」
リリィが紅茶をアインに振る舞いながら尋ねてくる。
「お茶漬け」
「ではその様に」
そしてリリィは食材を調達に出かけようとした。
「待った」
とアイン。
「何でしょう?」
「俺も行く」
「特に楽しいことはありませんが……」
「ちょっと気になってね」
「はあ」
ぼんやりとリリィは頷いた。
そして二人は学院街に赴く。
市場が流動し金銭が飛び交う。
「へえ」
とアイン。
「活気づいているな」
「神王皇帝四ヶ国から文化が流入していますから」
リリィは苦笑する。
「きさんはサウス王国の文化に興味津々じゃの」
鬼一が云った。
「さもありなん」
アインが答える。
それから茶葉とカツオ節、わさびと鯛の刺身を買って場を離れる。
しばし歩いていると、
「射ァッ!」
暴漢……と云うには指向性のある人間が襲いかかってきた。
「やっぱりか」
思念でそう語るアイン。
「これを予期していたのかや?」
「だな」
頷いてアインは鬼一を抜く。
「溜抜」
和刀が鞘を走る。
抜刀。
後の居合い。
襲ってきた暴漢の双眸を和刀が切り裂く。
「ぎぁぁぁぁ!」
苦痛に叫ぶ暴漢だった。
そんな暴漢に、
「てい」
とヤクザキックをかますアイン。
そして首を掴んで問う。
「誰から命令された?」
衆人環視を気にしないアイン。
さもあろうが、
「ぎぁぁぁぁ!」
暴漢は痛みに咆哮を上げるのみだ。
「しょうがない」
アインは暴漢の鳩尾を突いて失神させた。
「アイン様……」
とこれはリリィ。
「これを予期されたのですか?」
「さほどでもないぞ」
肩をすくめるアイン。
「俺とリリィが狙われてるのは道理だからな」
先の勧誘を指しているのはリリィも頷けた。
「じゃからきさんが出向いたのかの?」
声を震わせて鬼一。
「鬼一様……」
リリィが呻く。
「とりあえず今日はこれまで」
パンとアインが一拍する。
「お茶漬け」
「はいな」
「楽しみにしてるから」
「腕の振り甲斐があります!」
リリィはそれで良いらしかった。
それから二人は寮部屋に戻る。
「ただいま作りますね」
キッチンに立つリリィ。
「ゆっくりで良いぞ」
アインは素っ気なく言う。
「ではその通りに」
そして買った茶葉の一部を使って緑茶をアインに差し出すリリィ。
「ん」
と湯飲みに注がれた緑茶を飲む。
「ホッ」
と吐息をつく。
「美味いな」
「恐縮です」
そしてアインとリリィは夕餉にお茶漬けを食べるのだった。




