第205話:物騒な巷12
「結局何だったのでしょう?」
リリィの疑問も尤もだ。
辻斬り。
アンデッドとは違いソフがフォローしているのでニュースにならない。
ソフの扱いは慎重を必要とする。
ブルーブルの意向もあるだろう。
「ボランティアだ」
他に言い様もない。
言っていて心理的にかなり虚しくなるアインだが、事実の側面の一つでもあるので否定しがたいのも事実。
枢機卿。
代行師。
審問官ライトの上司で教皇レイヴの懐刀。
結果として仕事をせねばならず、そこに金銭取引は発生しない。
ボランティアは詭弁ではなかった。
面倒事の嫌いなアインではあるが。
「ソフ様も?」
「あはは」
こちらも誤魔化し笑い。
不死身にして死者を蘇生させる逸れ者。
高度に政治的な存在だ。
どちらの背景もリリィには荷が重すぎる。
元よりアインの愛人と言うだけ。
ファーストワン。
魔術に関しては一家言あるが、
「言ってしまえばソレだけ」
とも。
国家共有魔術学院は貴族の血筋が集まる。
リリィはその中でも優秀に分類されるが、
「それで?」
がアインとソフの感想。
どちらにせよ『此方側』には程遠い。
アインにしても、
「リリィに流血は似合わない」
との心の砕きようもある。
そのために事件から遠ざけているのだが。
「ではこの四元素の構造体である正四面体から……」
今は学院の講義中。
珍しくアインは起きているが、特に講義に集中もしていない。
ソフは講義に潜り込んでいる赤の他人。
リリィはノートを取っているが、興味はアインとソフの関係にある。
「私のいないところでイチャイチャ?」
「不名誉だ」
「お兄ちゃん……」
ソフは悲しそうに突っ込む。
「ソフ様を正室に?」
「あまり興味は湧かないな」
こと人外性に於いてはアインと肩を並べる剛の者。
根本的な部分で背中を預ける関係だ。
「お兄ちゃんになら……いいよ?」
「さいですかー」
誠意の欠片も見出せない。
「にゃあよう」
「何が不満だ」
「お兄ちゃんの意地悪」
「褒め言葉と受け取ろう」
「アイン様は欲求を持たないので?」
「不名誉だ」
「お兄ちゃん……」
今度は哀れむようにソフが突っ込む。
「えと」
サラサラとペンを動かしながら、
「私なら何時でも良いですからね」
「今この場でもか?」
「それは……」
講義中だ。
「無理ですけど……」
「だよな」
残念な感じ。
「童貞じゃの」
「はっはっは」
思念で愛想笑い。
蹴飛ばしたかったが自重する。
「鬼一様からも仰ってください」
リリィのそんな思念会話。
「言って聞くなら幾らでも言うんじゃがの」
「そういうことだ」
結局その気がないため、
「諦めろ」
と言わざるを得ない。
「だいたいリリィはビッチ過ぎる」
「アイン様以外に体を許すつもりはありませんが……」
「一人ビッチ?」
「何ですか、その不名誉な造語は」
「特に意味もなく浮かんだ言葉だ」
「お兄ちゃんになら良いんだけどなぁ」
ソフも一人ビッチらしかった。
「却下だ却下」
「えー」
「え~」
「お前らならもっといい男が釣れる」
「一応ご当主様のご意向に沿わねば……」
「俺が当主になったら開放してやる」
「田舎に戻されるんでしょうか?」
「その辺は妥協してやるよ」
「けれどもお子さんを作らないとクイン家に将来が無いのでは?」
「別にクインの血が断絶しても人類に悪影響が及ぶわけじゃないしな」
事実だが他に言い様もあるはずだ。
アインにしてみれば杞憂だが。
「お兄ちゃんは一生童貞?」
「それはヒロインのけっぱり次第」




