第202話:物騒な巷09
「ではな」
サクリと言って闇夜に消える。
アインとソフは見送った。
無論止めることも出来ないわけではなかったが、彼我の実力差を暗算して、
「反撃に出られると」
との懸念もあった。
アインもソフもそれぞれに人外なため、
「そもそも敵の攻撃を勘案する」
という点はあまり憂慮にもならない。
が、場合と状況……そして間合いの取り方で、
「諦めざるを得ない」
そんな結論。
無論ケイロンもソレを知って撤退を選んだのだろうが。
「にゃ」
ぼんやりとソフ。
ケイロンの消え去った方を指して、
「追う?」
そんな問い。
「止めとこう」
そこまで精力的にもなれない。
アインらしいと言えばその通り。
「餌場としては絶好だね」
アンデッドの特質。
アインもソフも知っている。
魔術学院はある意味で有益だ。
「あまり俺たちには関係ないがな」
「それもそうだね」
ソフも他人事らしい。
「さて……」
「ランニングの再開?」
「面倒事だ」
「ほう」
ソフが感嘆とすると、
「――――」
魔術が放たれた。
風の斬撃だ。
薄い面積に超常的な気圧を掛けて、擬似的な斬撃を創り出す。
アインの(と言うと正確ではないが)魔術に相似する。
心眼。
妙見。
把握。
判断。
行動。
結果。
アインはサラリと風の斬撃を避けた。
延長線上にはソフ。
「にゃ?」
まともに受ける形だ。
人体なぞ易々と切り裂く圧倒的な斬撃に、
「おやまぁ」
ソフは涼風のように感じた。
付随する風が蒼い髪を撫でる。
斬撃の魔術はソフに傷一つ付けることが出来なかった。
「――――」
アインの結界に動揺が伝わってくる。
「然もありなん」
アインは知っているがソフはある種の例外を除いて不死身にも似た能力の持ち主だ。
攻撃が通じず苦痛も覚えない。
「で、お前は?」
射程内の存在に問いかける。
「魔術師だ」
其奴はそう名乗った。
「家名は?」
「無い!」
いっそ清々しい。
貴族でなく魔術が使える。
ニアリーイコールでケイオス派だ。
一人の青年だったが、アインはあまり覚えようとも思えない。
「お前らみたいなお高くとまっている魔術師は気に入らねぇ」
「別に貴族の家に生まれたのは俺の功績じゃないんだが」
そもそも本質的にアインは魔術師と呼べない。
「同意見」
それはソフも同じだ。
「で」
あまり確認したくもないが、
「気にくわないから滅ぼそうと?」
「貴族は平民の敵だ!」
「だよなぁ」
そこは同意見のようだ。
アイン自身あまり貴族に良い印象を持っていない。
「さて、そうなると……」
ケイオス派の無力化は審問官の第一義だ。
「師匠?」
「何じゃ?」
思念会話。
「ライトを叩き起こしてこっちまで誘導してくれ」
「相分かった」
特に師匠ソレ自体を持つ必要も感じない。
「――ウィンドカッター!――」
ケイオス派が風の斬撃を放つ。
サラリと避けるアイン。
ソフの方は避けることすらしない。
のらりくらりとやっていると、
「学院法に則って拘束します!」
教会が現われた。
正確にはライトを含めた審問官の面々。
秩序の顕現者にしてケイオス派の天敵だ。
「色々と物騒だな」
お前が言うなに終始するが。