第198話:物騒な巷05
「あー……疲れた」
毎朝の素振りの後。
水で汗を流し、タオルで水分を拭う。
待っているのはリリィの朝食で、これがアインにとってはちょっとだけ楽しみというか……なんというか。
今日はサンドイッチ。
ソフもすっかり馴染んでしまい、
「一つ屋根の下」
の状況。
リリィは自信の立場を正確に理解しており、
「アイン様が仰るなら」
とソフを受け入れた。
「うまうま」
ポイポイと口にサンドイッチを投げ入れる。
そんなこんなで朝食を終え、食後のコーヒーを飲んでいると、
「アイン」
テーブルに立て掛けられている鬼一がアインに声をかけた。
思念会話だ。
「どしたい師匠?」
「ライトから申請だ」
「面倒事か?」
「さての」
「繋いでくれ」
「なんか電話代わりに使われてる気もするがの」
鬼一のそんな諦観。
「猊下。朝早くに失礼します」
「本当に失礼だ」
「畏れ入ります」
「で、どうした?」
「死者が出ました」
「アンデッドか?」
「いえ」
「?」
「辻斬りです」
「警察の仕事だろ」
「ソフ様に渡りを付けて貰えませんか?」
「ああ……そういう……」
「恐縮ですが」
「構わんが……」
チラとアインはソフを見る。
「にゃ?」
目敏く察するソフだった。
「お兄ちゃんどうかしたの?」
思念会話にソフも参加する。
リリィは弾かれる。
基本的に、
「知らぬが仏」
はアインやソフの立場では必定だ。
「ソフ様」
「にゃ?」
「力をお貸しください」
「幾らで?」
ほとんど俗物の領域だ。
「相談させてください」
心なしかライトの声も固くなった。
「家賃と思え」
アインがサックリ言う。
「にゃ」
ソフとしてもからかっただけのことらしい。
「では」
とライト。
「現場でお待ちしております」
「あいあい」
「にゃ」
そして思念会話を打ち切る。
「お兄ちゃんは人生万事天中殺だね」
「人が気にしていることを……」
色々と思うところもあるらしい。
「何のことでしょう?」
リリィは置いてけぼりだ。
「リリィは……」
「はい」
「講義に出てくれ」
「アイン様は?」
「用事」
返事は端的を極めた。
「ソフ様は?」
「お兄ちゃんに同行」
「宜しいので?」
「単位は期末試験で取るから気にするな」
コーヒーを一口。
「とりあえずリリィはノートを取っていてくれ」
「承りました」
柔らかく微笑まれた。
「それから朝食美味かったぞ」
「光栄です」
心底からの言葉。
「何が其処までさせるかな?」
はアインの不思議の一つだ。
「コーヒーお代わり!」
ソフはいつも通り。
「はい。アイン様は?」
「御願いする」
カップを差し出す。
この空間は心地よかった。
リリィの優しさに包まれる。
血生臭い因業と比較すれば、
「比較にもならん」
がアインの心情だ。




