第197話:物騒な巷04
「魔族?」
「ああ」
ランニングを終えて今日の訓練終了。
アインはソフと一緒に風呂に入っていた。
「はー、やっぱり癒やされる」
「私が?」
「風呂が」
この辺りは容赦が無い。
「お兄ちゃんのモーホー」
「そんなつもりもないがなぁ」
「おっぱい大きくしようか」
「止めはせんがだから何って感じだな」
「にゃごう……」
「剣術だけで魔族と渡り合える人間って……」
「珍しくはあるな」
特別なことはしていないが。
型を覚え、剣を構え、心を確かに。
言ってしまえばそれだけだが、
「他にやることもなかったし」
はアインの意見だ。
元が元。
そもそも心の両親である翁と媼の愛情を受けて育った人間で、家督を継ぐ気もなければ魔術師として大成する気も無かった。
今があるのは、
「不幸」
で片がつく。
ソフがソレを知らないはずもないだろうが、
「まぁ基本的に有り得ない」
はソフともう一人の人物のよく知るところだ。
「魔王殺し」
そんな三人であるのだから。
「魔術学院だから魔族としても心地良いんじゃない?」
「どうだろな」
「お兄ちゃんがケイオス派になればどれだけって思うけど」
「ジャンキーになる気はねえよ」
魔族との契約を麻薬に例えるのはどうかと思うが。
「アンデッドに関してはお前がどうにかしろよ」
「でも恩があるしなぁ」
アンデッド。
その能力の根幹はアインの知識範疇だ。
存在は、
「はた迷惑」
と論じられるが、
「どう対処すべきか」
が何度も述べたようにテーゼと相成る。
「封印刑?」
「時空を構築するのは……まぁ出来はするが……」
有り得ないことをサラッと言う。
そして、
「見栄を張っているわけではない」
のが恐ろしい。
「大概だね」
「お前に言われてもな」
ソフもまた大概だ。
不朽不滅。
その体現。
時に、
「死者蘇生すら可能とする」
という規格外。
当人は会社勤めの性分ではなく逃げ出してきたが、その能力の比類無さは……ある種のアインの禁術に並ぶ。
「死者をねぇ」
アインは実際に知っているため驚きもしないが。
「じゃ、私も夜の徘徊に付き合うよ」
「アンデッドをどうにかするのか?」
「出来ないわけじゃないけどね」
事実だ。
その手段をソフは持っている。
「無茶苦茶だ」
とはアイン。
「お兄ちゃんに言われても」
とはソフ。
「まぁそんなことより」
「何だ?」
「エッチしよ?」
「却下だ」
「むふん」
アインに体を重ねるソフ。
「私じゃ駄目?」
「別にお前が駄目ってわけじゃないが」
「なら、ね?」
「基本的に抱くならリリィからだ」
「むぅ」
「可愛いだろ?」
「リリィはね」
そこはソフも同意できるらしい。
「ファーストワン……」
「だな」
「子作り?」
「時が来たらな」
「来るの?」
「どうかね」
アインもそこまで青写真は描けていない。
「猊下は貴族に収まる器でもないと思うけど……」
「親父の精神的徒労を加味して黙っているんだよ」
「だぁねぇ」
その辺の事情は複雑だ。
「お兄ちゃんの童貞」
「反論の余地も無い」
さほど気にしてもいないらしい。




