第194話:物騒な巷01
「うにゃあ」
掲示板を見てソフが嘆息した。
所謂お尋ね者。
ブルーブルはソフを探して発令したらしい。
賞金首ともいう。
ちなみに鬼一を通した思念会話。
「死んだと見せかけたはずなんだけど……」
生憎とソフの生命力に関してはブルーブルも理解があるらしい。
「良かったな」
「何が?」
「能力を評価されて」
「にゃあ……」
ソフは恨めしげにアインを睨む。
「お兄ちゃんは気楽だにゃ」
「お前にだけは言われたくない」
それもまた事実。
「かか!」
大笑する鬼一。
元の能力が特異だ。
死体痕跡の偽装がバレても、ソフそのものの偽装はバレることもない。
その辺の自負はソフにもある。
アインと並んで魔王殺しの一角だ。
別に正義の味方ではないが、
「魔族何ほどの物ぞ」
の構えはアインと類似する。
「となると……」
しばし考えるアイン。
「学院も少し居心地は悪いな」
一応ブルーブルは企業で、ついでに国際共有魔術学院への出資者でもある。
先に言った様に理事にも一人ブルーブルの幹部が居座っている。
「お兄ちゃん?」
「どした」
「匿ってくれるよね」
「面倒事にならない限りにおいてな」
「にゃごう」
不満げなソフらしかった。
「まぁ賞金首になったって事は場所を特定できていない証明でもあるだろ」
「だね」
「逆にブルーブルを攻撃するというのはどうじゃ?」
「めんどい」
「以下同文」
「面白くないの」
鬼一は平地に乱を起こす。
「あまり歓迎できない」
がアインとソフの見解だ。
「いい加減どうにかしないとなぁ」
ソフとしても思うところはあるらしい。
基本的には自身の異能に自負を持つ逸れ物だが、
「企業の実験動物になるのは何か違う」
も事実。
「頼りたかったらオウルにしろ」
「趣味が悪いから嫌」
アインにしろオウルにしろソフには言われたくなかろうが。
「結局何なんだ?」
「?」
「ソフを欲しても意味ないと思うんだよな」
「じゃの」
鬼一も同意見らしい。
黒衣礼服のベルトに差してある。
いい加減学院としてもアインの奇抜さは成れる頃合いだ。
「じゃが企業としては死者蘇生は技術として確立したいのも事実じゃろ」
「む……」
「後は保険じゃな」
「お兄ちゃんには必要ないけど」
「然り」
「だから好きよ?」
「恐悦至極」
特に何がどうのでもない。
「結局責任問題でも無いから気楽なものだよな」
アインの本心はそこだ。
南無三宝。
「お兄ちゃん!」
「はいな?」
「助けて!」
「せめて魔王に襲われてから言え」
アインの言葉は至極真っ当だ。
「魔王を相手取ってすら一方的に叩きのめす」
ソフはソレだけの力量を持っている。
アインの禁術を防ぐ術は無いが、
「魔術が物理現象の延長ならば」
と仮定すれば、
「ソフを傷つける何者も能わず」
は一つの真理だ。
だからこそアインもレイヴも手を焼くのだが。
「面白くない」
「それは分かる」
アインもレゾンデートルの確立には苦労した。
「絶対お兄ちゃんを巻き込んであげる」
「本当にそうなりそうで怖いんだが……」
少なくとも
「ソフが冗談を言っている」
とは笑い飛ばせない。
アインは人様に説教できる立場では無いが、ソフのトラブルメーカーとしての力量を見誤ったことはない。
「わはは」
鬼一も同様だ。
だからこその呵々大笑。
「この賞金首が何か?」
一人、思念会話に参加していないリリィが問うた。
「なんでもにゃ」
ソフとしてもリリィを巻き込むのは避けたいのだろう。




