第192話:アイン・ソフ19
喪服姿で学院に通う。
講義を睡眠学習して、時間を浪費する。
が、そんな当たり前がアインには好ましい。
「ややこしい事態」
という嵐の前の静けさだと理解しているため、
「なんだかな」
という気分だが。
昼食をとりながら講義内容に目を通す。
リリィが筆記した講義内容だ。
アインとソフには今更だ。
「つまりこの時のタンジェントが……」
数学。
三角比についてだ。
距離を計る時に良く用いられる知識で、土木や建築に於いては必須技能……ではあるのだが、今の世界では役に立つのかどうか。
無論アインにしろソフにしろ、そちらの職能は持っていないが。
色々と講説しているところに、
「此処にいたか」
少年の声が届いた。
昨日のソレだ。
「やっほ」
アインは気さくだった。
何も考えていない。
それが下地にはあったが。
「決闘の件は覚えているな」
「一応」
「ついてこい」
言われて場所を移す。
中略。
魔術の修練場の一つにアインと少年は立っていた。
「リリィさんをかけての決闘。始めるか」
「俺のメリットは?」
別に何かを期待して言っているわけでも無いが、
「そも薬にもならない」
はアインの本音だ。
「むぅ」
呻く少年。
「金銭を支払おう」
「要らん」
「女」
「要らん」
「俺の家の発言力」
「まぁそんなところか」
言ってしまえば、
「無価値」
に相違ない。
アインは唯一神教の枢機卿。
それも教皇レイヴの懐刀だ。
貴族の発言力がどうのは、
「理論として破綻している」
も事実の一つ。
説明できないため、
「じゃ、始めるか」
アインはサクッと戦闘態勢に入った。
黒衣礼服。
所謂基準世界での学ラン。
その腰に師匠、
「鬼一法眼」
を差している。
半身になって柄に手を添える。
「わお」
とはソフの感想。
アインの剣術の突き抜け方をよく知っている一角だ。
魔族すら滅ぼす魔性の剣。
少年が知らないのも無理はない。
「魔術は使わないのか?」
少年の具申。
一応真っ当な疑問ではあるだろう。
魔術を修める学院での決闘。
当然、
「魔術師同士の諍い」
に他ならない。
「剣を握っている場合か?」
は学院の通念でもある。
「良いから掛かってこい」
一から説明するのも疲れる。
「では参る」
少年は手を此方にかざした。
「――ウィンドウェイブ――」
風の波。
不可視の津波がアインを襲う。
が、
「…………」
一瞬でソレらは霧散した。
「?」
何が起きたのか?
少年は捉えられなかった。
それはリリィも同様だ。
ソフだけがかろうじて認識している。
アインと鬼一は言わずもがな。
「防御魔術か?」
思案する少年。
そこにアインは気をあてる。
狙いは首と心臓と丹田。
正確に突き穿ったが、
「では」
少年は全く気付いていなかった。
「だよな」




