第191話:アイン・ソフ18
「…………」
早朝。
眼を覚ますとアインは自身に抱きついているソフを発見した。
無論、気付いてなかったわけではない。
が、別に、
「暑苦しい」
程度の害しか無いため、放っておいたのだ。
「うにゃー」
寝苦しい。
寝顔で語るソフだった。
引きはがして寝室を出る。
「おはようだ師匠」
「はい。おはようさん」
「ライトからの伝言は?」
「ないの」
サクリと。
「場合によってはぶっちゃけるのもアリか?」
「どうじゃろの」
師弟揃って、
「う~む」
と悩む。
アンデッド。
ある意味でソフに近い位置取りの能力者だ。
完全性で言えばそれこそソフの足下にも及ばないが、一般人にすれば差異はあまり無い。
「というより」
嘆息。
「人を襲う分、ソフより乱暴だよな」
「じゃな」
それが共通見解だった。
「封印刑にする気かや?」
「どうだろな」
特に考えてもいない。
「俺に害がなければ好きにしろ」
言葉にはしないが、
「落とし処なら妥当じゃな」
思念会話でのぶっちゃけに鬼一は苦笑色の声で答えた。
「問題になればレイヴからも催促はあるだろうし」
「であれば審問官の仕事か」
「そゆこと」
疲労の返事。
「あ、おはようございますアイン様」
既に起きているリリィが柔らかな笑顔を作る。
「おはよ」
その金髪を撫でる。
「訓練前にお茶はどうでしょう?」
「ありがたく」
そして二人は茶をしばく。
香り高い。
渋みもない。
絶妙に程よい刺激が舌を楽しませる。
「如何でしょうか」
「率直に美味い」
「恐縮です」
えへへ。
そうはにかむリリィは控えめに言って愛らしい乙女だった。
「幸せじゃの」
と鬼一。
「ありがたい限りだな」
とアイン。
「何がでしょう?」
リリィは不明らしい。
「なんでもにゃ」
金髪を弄る。
「今朝も訓練をなさるので?」
「日課だしな」
「決闘を控えていらっしゃるのに……」
「あー……そういえばそんなことも言ってたな」
茶を飲む。
失念にも程がある。
「アインらしい」
はその通りだが。
「大丈夫ですか?」
「気負ってもしゃーない」
まこともって、
「その通り」
とアインは重荷に思っていなかった。
「アイン様が負けたらあの貴族に……」
「それはない」
「そうなんですか?」
「勝敗とは関係なく御家の事情でな」
「ご当主様の……」
違う。
とは言えなかった。
が、殊更細やかな説明を労する場面でもない。
「それより俺が負ける可能性を想定していたのか?」
「えと、その、魔術をお使いになるならと」
「わはは」
呵々大笑する鬼一。
立て掛けていたテーブルから蹴り飛ばす。
「暴力反対」
「じゃかあしい」
いつものやり取りだ。
「ま、何とでもなるからな」
不遜。
自負。
あるいは器が大きいのか小さいのか。
「応援しております」
心配しながらリリィが応じた。




