第190話:アイン・ソフ17
「具合はどうでしょう」
「いつも通り」
アインは入浴前に体を清められていた。
リリィの奉仕だ。
色々と刺激は強いが慣れもする。
「お兄ちゃんは凄いね」
「お前が言うか」
そこにソフも平然といた。
既にリリィによって洗髪および洗体を終わらせており、広い風呂に悠々と浸かっている。
「リリィも大胆」
「アイン様は私のご主人様なので」
苦笑い。
「…………」
突っ込みたくはあったが、状況を俯瞰すれば説得力はない。
「はあ」
どうしたものか。
アインの思うところだ。
「おっぱい揉む?」
ムニュッと大きな乳房が湯面に浮く。
「遠慮しておこう」
「童貞」
「…………」
殺しは出来なくとも殺意は湧く。
のっぴきならない事情がソフの背後にはあるが、
「まぁソフだし」
で済む。
不条理。
「…………」
体を清めて、
「ふい」
湯船に浸かるアイン。
続いてリリィも入浴する。
「結局お前の放置しているアンデッドはどうするつもりだ?」
「どうもしないよ?」
「だよな」
一応アインもソフがどんな人間かは心得ている。
逆も然り。
アインがアンデッドに襲われた被害者に何一つお悔やみもないことはソフと心情を共にする。
薄情。
言ってしまえばそうだが、
「数秒に一人は死ぬ世界だしな」
でファイナルアンサー。
「アイン様でも殺せないんですか?」
「無理」
二重の意味で。
禁術は使えない(ということになっている)。
剣術だけでどうにかは出来ない。
アンデッドは字面通り、
「不死身」
だからだ。
オルフィレウスエンジンと呼ばれる第一種永久機関を持ち、無尽蔵に肉体を修復する異能。
殺すだけなら実は簡単だ。
オルフィレウスエンジンごと滅却すればいい。
ただ無力化となると話が変わってくる。
多彩な魔術。
老練な戦術。
人外の膂力。
そして自己修復の厄介さ。
気絶させてもすぐに眼を覚ます。
四肢をもいでも雨後のタケノコの如く修復する。
首を切ったところで止まらない。
「どうやってそんな不条理を逮捕しろと?」
ある種の代行者に於けるテーゼだ。
アインには、
「処置無し」
で済む。
これがアイスなら封印刑も出来はするのだが。
「お兄ちゃん?」
「何だ?」
「難しい顔してる」
「お前のせいだろ」
アイアンクロー。
ギリギリと頭蓋を握りしめる。
「にゃあよう」
あんまり効いてはいないが。
ことソフの能力はある種の怪物性を秘めている。
アインは例外だが(誤解を承知で)ソフを傷つけられる人間は皆無に等しい。
いないわけではないが、
「希少には相違ない」
が結論。
「アンデッドなぁ」
「それよりおっぱいの話をしよう!」
ムニュッと巨乳を押し付けるソフ。
無論折り重なっているアイン。
その胸板にだ。
「ソフ様の乳房は意外に大きいですね……」
着やせ……ではない。
「増量したからね」
端的に言ってのける。
「増量……」
意味不明だろう。
アインは覚っているが。
人体構造に関して一家言ある魔術師がソフだ。
その場でおっぱいを大きくするくらいは平然とやってのける。
「てい」
チョップ。
「話をややこしくするな」
が、アインの気苦労だった。




