第182話:アイン・ソフ09
寿司屋に三人で入る。
「ええと……」
リリィは蒼い美少女を警戒していた。
「じゃろうな」
とは鬼一の言の葉。
もちろん思念。
とりあえず適当に握って貰い、寿司を愉しむ。
もむもむ。
もぐもぐ。
そんな感じ。
「えと……」
とはリリィ。
「まぁ言いたいことは分かるが」
アインとしてもそのままスルーは出来そうにない。
「お知り合いで?」
「ある意味」
「お兄ちゃんって呼んでらっしゃいましたよね?」
「まぁな」
「妹さんですか?」
「赤の他人」
「それはひどいんだよ」
最後のは少女の抗議だった。
「ええと……?」
「此奴は」
蒼い頭をポンポンと叩く。
「ソフって言う。まぁ一種の友達だ」
クシャッと蒼髪を撫でる。
「ソフ」
その名はある種の広告だ。
「まさか……っ!」
「同名の別人」
サクリと釘を刺す。
「そもそも此奴がそんな大層なモノに見えるか?」
「それを言われますと……」
「にゃあよう」
寿司をもむもむ。
ソフ。
大陸に根を張る大企業……ブルーブルの職員の名前だ。
同時に勇者として高名で、魔術師として極まっている。
「死者を生き返らせる」
ほとんど不条理にも近い魔術行使を可能とする伝説の魔術師として名を残す。
「まぁそんな気宇の大きな人間になれって意味だな」
「にゃごう」
反論せず玉露を飲んで口直し。
「魔術師……なんですか?」
「だよ」
「学院の?」
「んにゃ」
「…………」
なにかしら考えてはいるらしい。
しばし考えているリリィはとりあえず無視で、
「お兄ちゃん」
ソフがアインに尋ねる。
「どした?」
「何で学院に?」
「ま、貴族として箔を付けるために」
「必要なの?」
「あまり」
それっぱかりは本音だ。
そもそも冷静に考えると、何故アインが大人しく学院に通い詰めているのかも本人が一番よくわかっていない。
「ていうか魔術使えるの?」
「使えるんだなコレが」
「どうやって?」
アインの魔術に対する素養の無さはソフもよく知るところだ。
「まぁ色々と」
「それを話してって言ってるんだけど……」
「要するに」
ファーストワン。
リリィの保有する魔力。
愛人関係と家の理屈。
精霊石に魔力を補填。
それを消費して魔術の行使。
述べればソレだけ。
「楽しい?」
「全く」
ほとんど流されているようなものだ。
「じゃあまた私とワクワクの旅に出るんだよ」
「絶対に断る」
「にゃんでよ?」
「お前といると厄介事に巻き込まれる」
「お兄ちゃんがソレを言うかな」
至極真っ当な反論に、
「…………」
答えず寿司を食むアインだった。
自覚はあるし、過去の人生で統計的に証明はされている。
「結局何なんだお前」
何と言っていいものか?
そんなアインの思案。
「まぁ人生万事暇潰しというか」
「まぁお前ならそうだろうな」
特に生きることにかけては、
「器用」
の一言だ。
別段他者に迷惑を掛ける人間でも無いので、
「トラブルメーカー」
の質さえ考慮に入れなければ人道主義の良い見本と言える。
あくまで、
「個人の範囲に焦点を当てれば」
ではあるが。




