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第180話:アイン・ソフ07


「食人鬼……ですか」


 ライトが少したじろいていた。


 アインは学生寮で茶を飲んでいる。


 ライトは教会で書物を複写していた。


 ライトは審問官だ。


 そしてアイン枢機卿をフォローする使徒でもある。


 魔族やモンスターの類への攻撃性は仕事の内。


 とはいえ、


「猊下はどんな星の下に……」


「ほっとけ」


 頭が痛いのはアインも同じだ。


「少女の姿ですか……」


「紅……というより血の色の髪だから目立つはずだ」


「キャラ被ってますね」


 ライトも赤い髪と瞳の持ち主だ。


 もっともこちらは正式に人間だが。


 常識と敵対するのは審問官として当然であるため此処では割愛。


「猊下を狙ったのですか?」


「にしては偶発的すぎる気もするがな」


「ふむ」


 何かしらの思案をしているらしい。


 思念での会話だが、能動的な意識発言でなければ思念全てが相手に届くという物でも無い。


「…………」


「師匠が黙っているのは珍しいな」


「なんぞきさんの業を覚えねばな」


「で、師匠としてはどう思う」


「さての」


 思案はしても懸念はないようだ。


「そもそも食人鬼が学院に忍び込んだ理由に依るじゃろの」


「たしかに」


 検問があるはずだ。


 商人ギルドなら立て板に水だが、食人鬼が学院に入り込んだのは不自然と言える。


「ふむ……」


「手強かったですか?」


「俺はさほど」


「猊下は在る意味で基準になりませんが……」


 皮肉では無い。


 単なる一般論だ。


 実際に剣術で魔族を滅ぼせるのは大陸でも数える程度の人間だけだろう。


 アインはその一角。


「一般人が襲われればどうでしょう?」


「栄養になるんじゃないか?」


 そういう問題でもなかろうが。


 要するに、


「一方的に喰われて終わり」


 ということだ。


「むぅ」


「というわけで処理はそっちで宜しく」


「猊下は?」


「縁があればまた出会うだろうな」


「では安心ですね」


「…………」


 爽やかな言葉がトゲになる。


 しばし黙考するアイン。


「なんだかなぁ」


 そんな思い。


「とりあえず」


 憂慮を払って会話を再開する。


「公布はしてくれ」


「承りました」


「出来れば教会と学院の警戒も」


「当然ですね」


「頼もしいな」


 無論皮肉だ。


「猊下を狙うでしょうけどね」


「じゃの」


 真摯なライトとからかう鬼一。


 アインは紅茶を飲みながら立て掛けている鬼一を蹴飛ばした。


「暴力反対」


「じゃかあしい」


 いつものやりとり。


「じゃ、そんな感じで」


 そして念話が終わる。


「で、実際の処……師匠としてはどうよ?」


 アインが尋ねると、


「さての」


 鬼一は素っ気なく。


「そもそも情報が足りんしの」


 アインが一人で対処した案件だ。


「逸ったか」


 先に立たないが故の後悔でもあるが。


「何がでしょう?」


 リリィは不思議そうだ。


 思念の会話には参加していない。


「少し外が物騒にな」


「襲われたのですか?」


「いや、さほどでもないな」


 呼吸するように嘘を吐く。


 なまじっか世間に擦れているため、この程度は簡単だ。


「攻撃魔術のバリエーションを増やすというのは……」


「必要ない」


 否定。


 だが、むしろテンポの良い言葉だった。


 本当に、


「何も思っていない」


 そんな言葉であったから。


 呵々大笑する鬼一。


 何時ものことだ。


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