第18話:国家共有魔術学院11
次の日。
日も昇らない早朝から鍛錬をして寮部屋に戻ると、
「…………」
アインは口をへの字に歪めた。
「おはよ」
「おはようアイン」
客が二人ほど来ていたからだ。
一人は燈色の髪の美少女。
名をアンネ。
もう一人は金髪の爽やかな青年。
名をシャウト。
おそらくリリィが淹れたのだろう。
紅茶を飲みながら爽やかな挨拶だった。
「アイン様。湯浴みの準備は出来ております」
「さいか」
「一緒に入ろっか?」
からかう様にアンネ。
「ふむ。一案だな」
したりとシャウト。
「乱入してきたら殺す」
いっそ平坦にアインは言って湯浴みをしに浴室へと消えた。
汗を流した。
浴室を出たら二人が消えていますように。
そんな願いは叶わなかった。
相も変わらず我が物顔で紅茶を飲んでいる二人。
「リリィ」
「何でしょうか?」
「こいつらに茶を出さなくいいぞ」
「しかしお客様を丁重にお持てなししませんとアイン様の名に傷がついてしまいます」
そう云われると強制しがたい。
「やれやれ」
がしがしと頭を掻くアインだった。
「モテモテじゃなアイン」
からかう様な鬼一の言。
様にと言うかからかっているのだが。
無論思念でだ。
「代わってくれ」
「無茶言うねい」
「だろうがな」
いつも通りの嘆息。
「師匠は気楽で良いな」
「うむ」
「清々しい肯定だことで……」
また嘆息。
「で?」
ダイニングの席に座りながらアインは問う。
「何の用よ?」
「お姉さんといちゃいちゃしましょ?」
「俺と相互理解を深めようじゃないか」
「却下」
「「どっちが?」」
「どっちもだ」
言わせるな、とアイン。
特にシャウトの方の提案には頭痛を覚える。
「アイン様」
とこれはリリィ。
「朝食はグラノーラで良かったでしょうか?」
「好物だ」
「ではその通りに」
そして二人分の朝食を用意するリリィ。
「いただきます」
一拍してザクザクと牛乳に浸ったグラノーラを咀嚼する。
「使用人は雇わないのかい?」
シャウトがそう尋ねてくる。
「リリィが従者だ」
実際には魔術を使えるリリィの方がアドバンテージを持っているのだが、生来の人間性で萎縮してアインに奉仕する存在である。
「リリィも魔術師であろ?」
「まぁな」
ザクザク。
「ならば何故従者という立場になる?」
「踏み込んでいい領域を越えてるぞ」
「それは失礼」
あっさりシャウトは身を引いた。
「とりあえず茶を飲んだら帰れよ」
「そうはいかん」
「だね」
シャウトとアンネは苦笑した。
「お姉さんと付き合いましょうよぅ」
「知らん」
「男色は貴族の嗜みだよ?」
「尚のこと知らん」
とかく二人はアインを気に入ったらしかった。
元より整った顔立ちであるため必然ではあるが。
「リリィ。今日の講義は?」
「一般教養と魔術実践論です」
「教養な……」
ニュートン物理学も発生していない世界である。
気疲れするのもしょうがない。
少なくともアインにとっては。
「で?」
「とは?」
「こいつらどうする?」
アンネとシャウトの二人に視線をやるアイン。
「私の処理能力を超えています」
こっちでなんとかしろってか?
アインはまた嘆息した。