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第178話:アイン・ソフ05


 とりあえず、


「疲れた」


 グデッと学生寮で大の字。


 そもそもにおいて特別珍しい講義という物が行なわれない。


 属性がどうの。


 信仰がどうの。


「そんなもので魔術が使えるなら世話は無い」


 今更だがアインの観念だ。


「お茶は飲まれますか?」


「ああ」


「何にいたしましょう?」


「任せる」


「承りました」


 部屋の温度を冷気で抑制しながら、リリィは紅茶を淹れた。


「うにゃあ」


 呻いてテーブルにつく。


 紅茶に口を付ける。


「どうでしょう?」


「美味い」


 基本的にアインに欺瞞はない。


 その意味でリリィはアインの感想を……裏を読まずに喜べる。


「恐縮です」


「こっちの台詞だがなぁ」


 サラリと。


 それから二人でパスタを食する。


 外食も出来るが、リリィは家事の万能性を発揮してアインの舌を楽しませることに意義を見出しているらしい。


「可愛い愛人だこと」


 鬼一が思念でケラケラ笑う。


「自慢のリリィだ」


 同じく思念で返すアイン。


「子を為す気はあるのかや?」


「将来の俺の責任だ。今は考えていない」


 そも魔術は血統による。


 幾つかの例外を除いて魔術師とはイコールで貴族だ。


 アインの場合はカテゴリーエラー。


「というより」


 アインをして疎んじるのは、


「禁術の素養は子に受け継がれるのか?」


 散々悩んでいるテーゼだ。


 アインはまぁ良識の範囲内に収まっているが、本来禁術はこの世界には存在するにはあまりに危険だ。


 親は子を多数生む。


 その理論で禁術師がねずみ算式に増えれば、この世界の崩壊は加速するだろう。


「さてのう」


 鬼一としては他人事らしい。


 然もあらん。


 食後の茶を飲みながら談義する。


 リリィには聞かせられない色々ごと。


「というかぶっちゃけ隠しきれないと思うんだが……」


 話題は、


「将来について」


 という学生らしい話題に移った。


「巡礼地」


 またの名を、


「ノース神国」


 と呼ばれる国。


 唯一神教の総本山であり、不可侵を約束された聖地だ。


 アインの血はそこの貴族だが、当人の肩書きは枢機卿である。


 もっとも一部の教会の人間しか把握はしていないが。


 当然アインの血の元である父親も知らない。


「いっそのことバラしてもいいんじゃなかろうか」


 そんなことも思う。


 宗教国であるため、貴族より枢機卿の方が数段上に位置している。


 そんなことを有り難がるアインでも無いが、


「父親の打算で魔術を学ぶのもな」


 も不満としてはある。


「難しい顔をされていますね……」


 少し不安そうにリリィが尋ねてきた。


「まぁ色々とな」


「ご不満があれば忌憚なく申しください」


「いや、リリィには悪感情はないな」


 それは本当だ。


「悩み……ですか?」


「大ざっぱに言えばそうなる」


「言えないことでしょうか?」


「んー……」


 しばし考えて、


「俺が宮廷魔術師に為らないって言えばお前はどうする?」


「えと……」


 困った顔。


 家族にまで迷惑を掛けることになる。


 その意味では受け入れがたいだろう。


「すまん」


 嘆息。


「困らせたな」


「いえ。こちらこそ」


 リリィとしてはアインとクインの未来予想図に挟まれている心境だろう。


「お茶のお代わり」


「しばしお待ちください」


 カップを回収してパタパタとキッチンへ。


「可愛いの」


「全くだ」


 そこに異論はなかった。


 鬼一もそうだがアインの親父ぶりもなかなかと言えたろう。


 残暑の厳しい季節。


 が、夜気は少しだけ冷やっこい。


「後期は何事も無く済めば良いが」


 無理な相談だ。


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