第177話:アイン・ソフ04
「アイン様」
リリィが呼ぶ。
この世の不条理を全て飲み込んで、あらゆる苦難にツッコミを抑えて、そうしてリリィはアインの肩をゆすった。
「どした?」
ホケッとアイン。
「講義は終わりましたよ」
「さいか」
講義の最中でも爆睡するアインであった。
剣術。
魔術。
禁術。
それらに対する知識たるや生半な物では無い。
「小生のおかげじゃな」
とは鬼一の談。
「だな」
そこはアインも否定しないが、
「誇ることでもない」
もまた感想。
「ふむ」
腹時計で時間を確認。
「昼か」
「です」
「昼食か」
「ですです」
「食堂か」
「ですですです」
アインとリリィはそんなこんなで学食を利用した。
アインはカレー。
リリィはパスタ。
もむもむと食べていると、視線を感じた。
「何か?」
心中そう言って辺りを見渡す。
「……っ」
視線を逸らされた。
「?」
さすがに意味不明なアイン。
「どう思う師匠」
念話での会話。
「さての」
会話を放り投げる鬼一だった。
だいたい二人はそんな感じ。
そこに、
「やあ」
と爽やかな青年が声をかけてきた。
「…………」
スルーしてカレーをパクつく。
「噂通りの堅物だね」
青年の苦笑い。
「えと?」
リリィが促す。
「ああ、挨拶がまだだね」
爽やかな青年。
「オイルという。よろしく」
「…………」
特別感銘を受けることもしないらしい。
アインの平常運転。
「君の前期試験の答案を見せて貰ったよ」
軽やかに青年は言う。
「見事な物だ」
賞賛に値する。
そう述べる青年。
「是非とも私の研究室に入って欲しい」
「…………」
アインは完全にスルーする。
そも、
「何処の研究室にも所属する気が無い」
が大前提だ。
「それだけか?」
「研究費から給料も出るよ?」
「…………」
学食の扉を指差す。
「反転してそのまま帰れ」
これを本気で言うのだ。
不遜にも程がある。
「私の研究室では不満かな」
「知らん」
とっかかりもない。
「顔を出すだけでも」
「それで痛い目に遭ってるからな」
「?」
困惑する青年。
一々説明する気力も無いアインではある。
「魔術にはあまり幻想を持ってないんでな」
「貴族としてソレはどうだい?」
「知ったこっちゃござんせん」
「ふむ」
青年は天井を見上げた。
「ま、継続は力なり……か」
諦める気は無いらしい。
「何なら愛しの姫君も一緒でいいんだよ?」
「個別に説得しろ」
にべもない。
アインとしてはコレがデフォルト。
「可愛くないの」
念話で鬼一が皮肉る。
「そんな人間に誰がした」
アインもまた辛辣だ。
「小生かや?」
「他にいるまい」
そんな感じ。




