第174話:アイン・ソフ01
「だる」
アインは、
「うんざりだ」
と表明した。
まだ残暑残る季節。
夏期休暇が終わりに近づき、アインとリリィはクインの屋敷で茶をしばいていた。
「学院ね」
別段魔術師としての大成も望んではいないアインだ。
「徒労だ」
が本音。
そもそもが、
「立場上宮廷魔術師になれない」
を前提とするため、父親の青写真は破綻している。
罪悪感を覚えるほど薄い面の皮でもないが。
本質的に彼からしたら「さほどどうでもいい」というか、「そもそも聞いてどうなるメリットがあるのか?」と疑問視できる。
「さてどうしたものか」
チョコレートを飲みながら思案する。
自身にも自覚(というより諦観の域だが)として、
「トラブルメーカー」
は察している。
「次は何じゃろな」
うきうき気分の鬼一が疎ましい。
「何も起きないが一番だ」
「さりとてきさんがソレで平穏に暮らせたかや?」
アインは立て掛けていた鬼一を蹴った。
「暴力反対」
「じゃかあしい」
いつもの師弟だった。
「平穏ではなかったのですか?」
「…………」
無邪気なリリィにそっと目を逸らすアイン。
まさか、
「他国に攻め入ったあげく円卓の魔王と戦った」
等とは言えない。
頭の痛い問題だ。
結局のところレイヴに言い様にこき使われているのだから、
「信仰って何だろうな」
程度には不満もある。
能力相応の責任をアインは自負してなどいない。
「基本的にリアクションなんだよな」
「きさんがソレを言うか」
鬼一のツッコミも適確だ。
「師匠のおかげだな」
「恐悦至極」
「皮肉なんだが」
「知っておるじゃ」
「…………」
ほろ苦いチョコレートとは別の要因で顔をしかめる。
「そういう星巡りなんじゃろな」
「星のせいにされても……」
とはいうが、この世界では有益だ。
否定しがたいことに。
「南無三」
「魔術の方はどうでしょう?」
紅茶を飲んでいるリリィの言。
「ま、そこそこにな」
「宮廷魔術師になるなら相応の努力が……」
「頑張る」
根も葉もないことを抜かすアインである。
その気の無さは国宝級。
「禁術の冴えも劣らんしの」
念話で話しかける鬼一。
「師匠の教えが第一だからな」
魔術は二の次、三の次。
「然りじゃ」
この辺は師弟と言えたろう。
アインとしても、
「知らぬよりはよほど良い」
そんな感想だ。
「さて」
とりあえずは学院に戻る羽目になるのだが、
「いっそ暗殺するか?」
誰をか?
クインである。
当主が死ねば自動的にアインに家督が転がり込んでくる。
そしてそのための手段も持ってはいる。
その気はサラサラ無いが。
「ここでゲッシュが阻むからなぁ」
「したりしたり」
鬼一は嬉しそうだ。
基本的に、
「人生は花と月と酒と詩」
そんな感じ。
特別悪いわけではないが、
「アインの苦労は酒の肴」
も事実ではあった。
「良い面の皮」
アインの感想だ。
師匠。
鬼一法眼には恩義を感じているが、
「そもそもエゴイズムの産物と結果」
であることも察してはいる。
その点で云えば、
「迷惑の根源」
と言えたかもしれないが、
「自分の足で立てたのは……まぁ半歩ゆずって師匠のせい」
その程度は弁えている。
口にしては言ってやらないが。
「素敵ですね」
「何がよ?」
そんな感じ。




