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第173話:枢機卿の苦労19


「たでぇま……」


 色々やることを終えた後。


 アインは片田舎の義父と義母の家を訪ねた。


「ああ、アインちゃんに鬼の字さん」


 穏やかに笑って迎えてくれる義母に、


「まったく何処で何をしているんだか」


 麦酒を飲みながら快活に笑う義父。


「ちょっとまぁ色々と」


 まさか「魔王と戦ってコレを鎮圧」とは言い難い。


 色々と大変ではあった。


 帝国のガギア帝の封印刑および帝室の不信の告発。


 ガギア帝国正統政府の皇帝ジリアに於ける捲土重来レコンキスタ


 正気を取り戻した帝国民に喝采を贈られてジリアは女帝となった。


 帝都で戴冠式が行なわれ、その覇権を事実上握り帝室を正しく復古させる。


 裏ではレイヴとアインにたっぷり貸しがあるためノース神国にとっても悪いことではないが、


「まさか此処までがレイヴの嬢ちゃんの特質ではなかろうか」


 との鬼一の疑念はさすがにアインも笑えなかった。


 可能性の話でなら有り得ないとは言い切れない。


 もっとも、どちらにせよ魔王の脅威を取り除くのも代行師の務めであるため、めでたしめでたしは素直に歓迎できる。


 それから帝国の隣国への事情説明と陳謝巡礼。


 教皇レイヴが、


「帝室の暴走は魔族の笛によるもの」


 と声明を発表したため、損害の補償程度で済んだ。


 一時的に国庫は寂しくなったが、ノース神国とのパイプも太くなったため、ある意味レイヴの威光の範囲内とも言え、帝国民も平和の享受を喜んだ。


 教会の使徒や教徒が帝国で幅を利かせて、潜伏するケイオス派の掃討に当たってある種真っ当な国家像を取り戻したともいえる。


 またしても人類は魔族の脅威を乗り越えたことになったが、その代表であるアインは形而上的に疲労の極致であり、何はともあれ心のオアシスを求めて義父と義母の家に戻ったとの経緯。


 これで超過勤務手当が付くなら救いもあるが、


「枢機卿の行いは神威の代行と信仰の体現」


 であるため、信仰心有りきで語られ金銭の授受は発生しない。


 もっと言えば、


「魔族の討伐は信徒の信仰心のテストである」


 と言われ、善良性への審問であり、ぶっちゃければボランティアだ。


「何が哀しくてボランティアで魔王を相手取らにゃならんのだ」


 がアインの本音だが、


「今更じゃろ」


 との鬼一の言も正しい。


 椅子に立て掛けていた鬼一を蹴飛ばす。


「暴力反対」


「じゃかあしい」


 そんな師弟。


 とまれ事実は事実としてランスロットとの因縁も今回が初めてではないのだ。


 色々と問題を起こしてはアイスが鎮圧に向かうこともザラである。


 もっとも国家そのものを乗っ取って乱行するとも為れば、


「頭の頭痛が痛い」


 の典型ではある。


 これでまたアイス枢機卿の名が上がったとあってはアインとしても面白くない。


「はぁ」


 いつもの嘆息。


 クテッと木製のテーブルに撓垂れかかる。


「お疲れみたいね」


 クスッと義母が笑った。


「何をしたんじゃ?」


 酒の陽気で尋ねる義父。


「ボランティア」


 事実には違いないが、自身が納得できているか怪しい。


「義父さんと義母さんが俺の癒やしだ」


「まぁまぁ」


「わはは」


 愛子のように可愛がられているアインである。


 心底からの本音だ。


「ところで結局ガギア帝国との不信はどうなったのかしらね?」


 アインにチョコレートを差し出しながら義母が云う。


「さぁてねぇ」


 知らない振り。


 沈黙は金だ。


 まさか、


「枢機卿としてガッツリ関わりました」


 とも言えない。


「あのう」


 とアイン。


「なんじゃ?」


「なぁに?」


 義父と義母が首を傾げる。


「夏期休暇中は此処に居ていいですか?」


「勿論ですとも!」


 義母の表情が華やいだ。


「遠慮は要らんよ」


 義父も快活に笑う。


 愛子を愛すると言う点において、この老夫婦は実父のクイン以上の親である。


「どもです」


 精神的な疲労が浄化される。


「愛されておるの」


「だからこそ愛おしい」


 これは師弟の思念でのやりとり。


 そんなわけでクインの直系も何のそので残りの夏期休暇を義父母の愛を受けて過ごすアインだった。


 希にレイヴの意向でボランティアに励むことになるが、それはそれとして貴重な時間である。


 南無阿弥陀仏。


「リリィの嬢ちゃんはどうするんじゃ?」


「まぁねぇ?」


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