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第172話:枢機卿の苦労18


「えと……」


 帝室の浄化を終えた後。


 アイスは帝城の私室に顔を出した。


 侵入したとも言えるが、過程を見れば堂々と。


「どちら様でしょう?」


 ジリアの妹。


 ガギア帝の娘。


 薄幸の王女。


 シャナである。


「なるほど」


 はアイスと鬼一の共通見解だ。


「お久しぶりですね閣下」


 丁寧にアイスは一礼した。


「どなた……ですか?」


「そういう演技は良いから」


「…………」


「因果の糸は見えてる。さすがに今回はやり過ぎたな」


「…………」


「なぁ? ローズオブラウンドが一角。狂奔のランスロット閣下」


 円卓の魔王(ローズオブラウンド)


 この世界に存在する魔族たちの頭目。


 魔王ロードと呼ばれる高位魔族。


 その一角であるランスロットは『狂奔』と呼ばれ畏れられる。


 常に姿を現わさず、幕の影から笛を吹いて人を狂乱させる道化。


 指摘された瞬間、


「――――」


 ニヤァと人の物とは思えない愉悦に満ちた狂気の笑顔に変わるシャナ殿下。


「まったく不条理ですね猊下は」


 魔王ランスロット。


 アイスにとっては顔馴染みだ。


 教会のトップカテゴリーは魔族のトップカテゴリーと抗しうる関係にある。


「こっちの台詞だ」


 アイスとしては後手に回った分だけ卑下できる。


 ケイオス派を抱えて尚ガギア帝国が能率的に魔法騎士団を指揮できたのがランスロットに起因する。


 魔族の王。


 当然、魔族とケイオス派にとってランスロットの指示は絶対だ。


 結果隣国に迷惑をかけたのだが、これは今更。


「あなたの魔術は一国とさえ戦いうるのですね」


「そうじゃないと言った覚えはないが、そっちも力量的には似たような物だろ」


「否定はしませんがね」


 ランスロットはシャナ殿下の体で肩をすくめた。


「それだけの力があって何ゆえ神の奴隷に身をやつせるのです?」


「お前ら魔族と違って人間はしがらみがあるんだよ」


「それすら粉砕できる能力者でしょうに……」


「否定はしないが」


 問題は其処には無い。


「お前ら魔族は生き方が刹那的だよな」


「いけませんか?」


「むしろ羨ましいな」


「ではその通りに生きれば良いのでは?」


「そうすると老後が寂しいんでな」


「老後……」


「清く正しく美しく……まぁ唯一神教の教義だが、看取って貰うにも信頼がなければならないのが人間って奴だ」


「そんな老後のために作戦を破綻されれば面白くないのですが……」


「お前ら魔族の刹那主義で血が流れる人類の方が面白くねぇよ」


「ですな」


 カラカラと少女の表情でランスロットは笑った。


「十分遊んだろ? ガギア帝国を返して貰うぞ」


「ええ、あなたとは縁がある。こちらの演目の悉くを台無しにされるという意味に於いて」


「何なら実体を晒して掛かってこい。一撃で破滅させてやるから」


「いえいえ」


 ニヤァと笑うシャナ殿下。


「人を煽って血を流すのが幕裏の笛吹きの楽しみです故」


 腐っても魔族と言うことだろう。


「ま、反省するくらいなら初めから何をするでもないな」


「ええ、また御縁がありましたならば……その時に」


 アイスはシャランと和刀、鬼一法眼を抜いた。


 因果の糸で魔王に操られているシャナ殿下。


 その心臓に刀を突き刺す。


 糸切り。


 人の業を切る。


「がっ……!」


 呻くシャナ。


 魔王ロードランスロットの干渉を断ち切って自意識を取り戻す。


 そこまで確認して刀を引き、血が出るより先に身障を補填してのける。


 禁術による逆説的な治癒だ。


「ふえ?」


 意識を取り戻したオリジナルのシャナの人格が表に出る。


「えと……ええ……?」


 パチクリ。


「アイス猊下?」


「まぁそうなるよな」


 狂奔のランスロットに意識を奪われていたのだから無理もない。


「これで帝都民も正気を取り戻すか」


「御苦労様じゃ」


「全くだ」


 あえてアイスは反論しなかった。


 大体にして一国の思案と策謀を一人で潰したような物である。


 血の一滴も流さず怪我の一つもせず成し遂げたとは言え、


「解決か?」


 と言われるとややも怪しい。


 そもそもにおいて狂奔のランスロットの企みは潰しても、ランスロット自身は、


「操り人形を失った」


 程度のことでしかない。


 アイスとしても知り合った仲ではあるが、その全てに於いてランスロットは二つ名の通りに人間に『狂奔』を植え付けて人と人との確執と流血を呼んでケラケラ笑うのが常だ。


 自身は影に潜んで人を操り狂乱奔走させる。


 ソレが故に『狂奔のランスロット』と呼ばれる魔王ロードであるのだから。


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