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第166話:枢機卿の苦労12


 ノース神国に激震が轟いた。


 正確にはノース神国とガギア帝国……そしてその周辺国家に。


 ガギア帝国からノース神国への宣戦布告。


 波紋のように大陸に広がり世論となる。


 戦争。


 ノース神国の民にはあまり覚えの無い概念だ。


 元が宗教国家にして聖地。


 侵略不可が原則で、穏当な政治国家でもある。


 その不可侵を破ったのがガギア帝国となれば不安も煽る。


 ノース神国も武力は持っているが、あくまで最低限。


 なお教皇直属の戦力は教義に従って殺人を禁忌としているし、王室の保有する騎士団は修練はともあれ実戦の経験はない。


 対するガギア帝国は既に魔法騎士団を以て隣国を黙らせ、ノース神国を滅ぼすと宣誓した。


 その下地にケイオス派があるのは一部の人間しか知らないが、ともあれ勝算も無く聖地にして禁足地のノース神国に喧嘩をふっかけたりはしないだろう。


 ノース神国の民は神に祈りを捧げる他ないが、


「まぁ好きにしやれ」


 というのがアイスの言。


 そのアイスはと言えば少々難しい立場にあった。


 ガギア帝が宣戦布告に当たり言ったのだ。


「剣聖アイス枢機卿は我が国の戦力を不都合という理由で虐殺してのけた! 教義に於ける殺人の禁戒は何処へ行ったか! この不条理を正すことこそ正義の道であろう! 今こそ聖地を騙るノース神国に宗教裁判を!」


 鬼一が言うに、


「ま、プロパガンダじゃな」


 とのこと。


 実際にはアイスはケイオス派を無力化はしても殺してはいない。


 その辺りの事実確認は後手に回る。


 ネットワークの無い世界であるからこればっかりはしょうがない。


 とはいえ、ノース神国が戦いもせずに白旗を揚げるのもまた違う。


「答えるにアイス卿は一切の殺人を行なっていない。ケイオス派の無力化並びに事態の沈静化を行なっただけのこと。それは学院の知るところである。ケイオス派を量産することで世論を煽るガギア帝の乱心は目に余る。願わくは正道に立ち戻られんことを」


 それが教皇レイヴの声明。


 さらに追撃の声明が発表された。


「わたくし……ジリアはガギア帝の不条理を看過できません。ここにガギア帝国正統政府の名を以てガギア帝国臣民に命じます。ケイオス派に堕ちた帝室に正当な鉄槌と平等な裁判の手段を」


 ガギア帝国正統政府。


 命名は鬼一だ。


「スペースオペラは聖典じゃ」


 とのこと。


 亡命政府の樹立と、ガギア帝国への反抗。


 そのために表に出るのは当然ジリア王女殿下。


「ガギア帝国は今魔族に支配されています! どうか信仰の道にある皆様方! この背信を是正すべくわたくしに力をお貸しください!」


 ケイオス派によって構成された魔法騎士団の存在もまた罪状としては重い。


 色々と囁かれてはいるが、


「正当性はノース神国にある」


 との結論と、


「しかし武力的優勢はガギア帝国にある」


 との結論も、偏に明瞭だ。


「軽率だったな」


 とは紅茶を飲みながらのアイスの言葉だが後悔はしていない。


 コロネへの手向けとしても正しいと信じている。


 だいたい人の一人も殺していないため、長期的にみればノース神国が有利だ。


 懸念すべきは国際問題に萌芽する前に帝国の武力に踏みにじられる可能性だが、


「貧乏くじを引くよな」


 がアイスのガギア帝国への論評だ。


 レイヴがいる限りノース神国への侵攻は有り得ず、そしてその根拠にアイスが選ばれるのは、


「もう何時ものこと」


 とアイス自身も諦めている。


 嘆息。


「お手並み拝見じゃの」


 鬼一はわくわくしているらしかった。


 偏に他人事なのだろう。


 和刀に人道を求めるのも違うので立て掛けたテーブルから蹴倒すに留める。


「暴力反対」


「じゃかあしい」


 何時ものやりとり。


 意見の齟齬は今更だが、


「まぁ持久戦ですね」


 レイヴは紅茶を飲みながらホケッと言った。


 この際の時間はノース神国の味方だ。


 既に牽制や掣肘の意味を込めて隣国を封殺している帝国ではあるが、時間が経つほど隣国の国境沿いの戦力は修復されて不可侵地帯への侵攻に対する誅伐として帝国を攻撃できる。


 帝国がノース神国を攻略するなら、


「短期間で一息に」


 がミッションだ。


 専守防衛主義のノース神国であるから負けない戦いはある程度出来る。


 とはいえ、


「こちらの教義を犯した異端を教皇が自然排除で済ませるはずもない」


 とは思念によるアイスの言葉で、


「じゃの」


 鬼一も大凡は把握している。


 アイス枢機卿をやり玉に挙げての宣戦布告。


 ほとんど唾を吐きかけられたに等しい短絡だ。


 レイヴをして憤怒させるのも致し方なし。


「アイス卿?」


 表面上和やかなレイヴがアイスにとっては疲労の種だ。


「ケイオス派の軍隊の駆逐。宜しいですね?」


「殺人は教義に反しますが……」


「殺さなければいいのでしょう」


「まぁそう言いますよね」


 一騎当星。


「まっこときさんは逸れ者じゃな」


 あまり尊師に褒められているとも錯覚できない難儀なアイスではあったが。


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