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第165話:枢機卿の苦労11


『アイス猊下……!』


 宮殿の修練場。


 騎士団が武術を磨くための場所だ。


 勅命としてそこに集まったのは騎士団の一角である聖剣騎士団。


 総勢十七名。


 聖剣は元より幻と呼ばれるアーティファクトだ。


「たった十七人」


 ではなく、


「よくも十七人も集めた」


 が認識としては正しい。


 一人一人が聖剣を持ち、そを振るに足る実力を有する。


 だからこそ聖剣騎士団にとって剣聖アイスはブランドでもある。


 剣一本であらゆる敵を排除する。


 なお魔術を魔術の斬撃で相殺する。


 正確には相殺魔術は鬼一の能力だが部外秘でもある。


 色々と試行錯誤の結果生まれるのが聖剣であるため、それ相応の神秘の発現は執り行えられる。


 一本ごとに現わす現象も違うため中々飽きさせない側面も持つ。


「いいんだが」


 とはアイスの無気力。


「誰か使ってみますか?」


 対外的に丁寧語を使わざるを得ないのが枢機卿として辛いところ。


 それに関しては事前に摺り合わせがあったため、一人が選ばれた。


 騎士が聖剣を握る。


 此度の聖剣は『重さ』を操るとのこと。


 鬼一が言うに、


「重力操作じゃな」


 ではあるが理解できるのはアイスとレイヴくらいだろう。


 そもそも重力という言葉をこの世界の住人は知らない。


 剣や肉体を軽くし、斬撃を重くする。


 また斬った対象に超重力をかけることも出来るとのこと。


 自己の強化と敵の劣化。


 その双方を一振りで実現する聖剣。


 なるほど威力は破格だ。


「アイス猊下」


 聖剣を握った騎士がアイスを見やる。


「打ち合っては貰えませんか?」


「そのつもりです」


 聖剣騎士団の指南も先述したようにアイス枢機卿の仕事だ。


 シャランと和刀たる鬼一法眼を抜く。


 片手で握り脱力。


 地面に突き刺さる鬼一の切っ先。


 対する騎士は正眼に聖剣を構えた。


 片や脱力。


 片や緊張。


 グッと聖剣の握りが強くなる。


 それだけでアイスは次の行動を読み取れる。


 超高速。


 踏み出し、踏み込む騎士。


 速かった。


 重力操作で剣と自身を軽くし、一瞬で間合いを潰す。


「足に羽が生えたような」


 と表現できる軽妙さ。


 切り裂いたアイスは朝日の前の霧のように散る。


 残像。


 寸前で避ける。


 地面に叩きつけられた聖剣がミシィと音を立てて床を割った。


 どれほどの威力か?


 修練場の床全面が蜘蛛の巣状にひび割れる。


 重力を軽くして間合いを詰め、斬撃に移ると最大限の重力増幅で重たい斬撃の再現と云った所だろう。


「…………」


 アイスは平然としていたが、


『――っ!』


 騎士団の面々は驚愕していた。


 元より自身らの帯びる聖剣も認識の埒外だろうに新たな聖剣の威力も劣ってはいない。


 戦術レベルに於いてはあまりに暴威的と言える。


 重力……重みを操作して軽やかに剣を繰り出す騎士に、


「はあ」


 ぼんやりとアイスは躱してのけた。


 手に持った鬼一は未だ一度も振られていない。


 単純な体さばきだけで羽のように軽やかな聖剣の斬撃を躱すのだ。


「剣聖猊下はさすが」


 というのが騎士団員の総意でもある。


「さて」


 チャキッと鬼一が謳った。


「そろそろ打ち合いますか」


「望むところ!」


 上段からの振り下ろし。


 そこに重みの魔術が付与される。


 対するアイスの剣は水平な形で聖剣を受け止める。


 アンチマテリアル。


 事象の無力化。


 それは重力操作でさえ例外ではない。


 とはいえ両手剣の渾身の上段を片手の剣で受け止めるというのだから、


「本当に人間か?」


 との疑念もしょうがない。


 能力は人間の埒外だが構成物質は同じはず。


 重力による軽さの実現。


 超高速の斬撃。


 その全てを打ち払うアイス。


「ふむ」


 しばし打ち合いながら思案。


「中々に貴重なアーティファクトですね」


 体勢を崩した騎士の喉元に鬼一を当てる。


「ご感想は?」


「……参りました」


 聖剣を持った騎士でも届かない。


 故に剣聖なのだから。


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