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第164話:枢機卿の苦労10


 聖剣。


 教皇より下賜されるアーティファクトだ。


 剣としての最高の研ぎと精霊石による魔力を封じ込める機能を持っている。


 その製法は一部のトップカテゴリーしか知らないが、ともあれ精霊石に封入された魔力を聖剣の術式に落とし込んで武力と魔術を誘発する。


 理論としては国家共有魔術学院におけるアインと同列だ。


 要するに精霊石で魔力を調達し、当人に魔術の素養がなくても神秘を顕現できるというのだから。


 アインにとっては、


「剣術と禁術と魔術で三足のわらじだ」


 と嘆息するところだが、とりあえず騎士にとっては有用だろう。


 聖剣の下賜も栄誉なら、聖剣騎士団への入団も栄誉である。


「働かなくとも食える身分なら確かにな」


 とはアイスの談。


 ノース神国は大貴族のクイン家でさえ調達に苦難した精霊石をどうやって騎士団の成立に及ぶほど確保したのかはアインやアイスですら知り得ないことだが、


「レイヴの嬢ちゃんなら何でもありじゃからな」


「反論も出来んな」


 鬼一とアイスはそんな応酬をした。


 で、何事かといえば聖剣がまた一つ新たに打たれたとのこと。


 ある意味で、


「聖剣一本が一国を傾かせる」


 とのジョークも囁かれるが、あながち正鵠ではないにしても的を射ているのも一側面として事実ではある。


 聖剣鍛冶師が恭しくレイヴに差し出し、レイヴは聖剣に祝福の言葉をかけ、アイスが手に持った。


 ずしりと重い金属の塊。


 鬼一で慣れてはいるが、


「人を殺すのに必要な重みを忘れるな」


 とは剣の術理の下地だ。


 もっともアイスは事情が事情であるため大量虐殺の可不可は能力と状況で離反する回答を得る。


 更に渡された鞘に聖剣を収めて鬼一とは反対の腰に差す。


 装飾過多だが、剣の合理性は鬼一にも論評に値した。


 そうであるから聖剣を打てる鍛冶師なのだろうが。


「しかし精霊石がねぇ」


 アイスは不審を覚える。


 聖剣の理屈は鬼一から聞いてはいる。


 チャーマーズアクチュエータ。


 基準世界ではそう呼ばれているらしい。


「言っている意味は分かるが、可能か?」


 と問うたのは何度か。


「ま、神様も暇してるのじゃろ」


 鬼一の方も不遜の一言だ。


 嘆息。


 それから宮殿をアイスとレイヴとジリアで歩く。


 剣聖枢機卿。


 教皇。


 帝室直系で教皇の客分。


 宮殿に於いてもギョッと瞠目される。


 恭しく敬礼されながら、道すがらの人々に挨拶する教皇。


「そに感動するのは如何な物か?」


 アイスは口にこそ出さないが目で語っていた。


 それは皮肉ではなくむしろ自嘲に近い。


 剣聖アイス枢機卿猊下。


 その名もまた敬服に値するというのだから精神的にも肩が凝る。


 で、クイン家の跡継ぎが目指すところの宮廷魔術師。


 その謁見をアイスたちは求めた。


 王室の戦力の一角であり、ごく一部は枢機卿と両立している。


 政教分離はいまだこの世界の文明が辿り着くところではないため、ある意味でノース神国の采配は、


「良くも悪くも宗教的」


 と鬼一あたりは皮肉る。


 アイスとしても異論は無い。


 ともあれ聖剣も魔力がなければ上質の鋼以上のモノではない。


 装飾過多に彫られた聖剣の鍔の中心。


 そこに精霊石が封入されている。


「シクヨロ」


 とはアイスの心境で、事実としてはもっと丁寧に言ったが、何にせよ精霊石に魔力を封入するのも宮廷魔術師の仕事の一つだ。


「承りました」


 と恐縮しながら聖剣を受け取り魔力を注ぐ宮廷魔術師。


 しばし時間が経過し、


「終わりました」


 と丁寧に聖剣がアイスに返される。


「お務め御苦労様でした」


 レイヴが労うと、


「猊下に仰って頂けるのなら何よりでございます」


 魔術師は最大限の敬意で頭を下げた。


「難儀じゃの」


「レイヴよりむしろ宮廷魔術師がな」


「きさんはどうする気じゃ」


「レイヴに逆らえないのは身に染みてる」


 形而上の疲労が思念にのっていた。


「人が良いの」


「それだけが取り柄だからな」


 中々へこたれないアイスである。


 そして聖剣を鞘に戻して柄頭を指先で叩く。


「卿に限っては小生の出番は無さそうじゃの」


「師匠が望むなら抜くが?」


「必要なかろう」


「その辺で遠慮する類じゃないから信じはするが……」


「するが?」


「吸血性はこの際の悪徳じゃないか?」


「振るったのはきさんじゃ」


「だけどさぁ」


 腰の左右。


 その和刀と聖剣の柄頭を叩いて嘆息するアイスだった。


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