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第162話:枢機卿の苦労08


 翌朝。


 アインはリリィの家で目を覚ました。


 元より泊まりを予定していたためコレはいい。


 まずは朝練に意識が向く。


 走り込みと型稽古。


 リリィもアインに負けず劣らずの早起きで、アインに付き合った。


 訓練ではなく応援の立場で。


 さすがにアインのトレーニングに付き合えるほど鍛えてはいない。


 魔術師としての戦力は一考できるが、鬼一が言うに、


「シーカのついてないミサイル」


 と評されもする。


 南無三。


「何かもう慣れてしまいましたが」


 とはリリィの言葉で、鬼一に向けられた。


 壁に立て掛けられて、


「何にじゃ?」


 鬼一も音声で答える。


「何がアイン様を其処までせき立てるのでしょうか?」


「訓練のことかや?」


「はい」


「アインもあれで苦労人……とは言ったじゃろ?」


「はい」


「小生のせいでもあるのじゃが……ともあれ思うところもあるんじゃよ」


「鬼一様はフォローされないので?」


 鬼一もインテリジェンスソードではあるが魔術自体も行使はする。


 実際にアイスへの変貌やアンチマテリアルが此処に上げられるだろう。


「師弟関係じゃからな」


 が鬼一の返答だった。


「小生は端的に指南するだけじゃ。その力のベクトルを決めるのはあくまでアイン自身じゃよ」


「厳しいですね」


「そうかのう」


 特に自覚していないわけでもないが、リリィと話し合うに当たって『禁術』についての言及が出来ないため、


「あくまで剣術補助の魔術支援」


 という立ち位置に為る。


 学院では実際にその通りに機能しているため、リリィの判断も至極自然だ。


「不出来の弟子じゃが見捨てないでやってくれぃ」


「有り得ません」


「かか!」


 大笑する鬼一。


「良い女子じゃ。アインには勿体ない」


「いえいえ。私の方こそアイン様の愛人として役者不足です」


「てい」


 ペコンと優しく木刀がリリィの頭を叩く。


「ふや?」


「謙遜もほどほどにな」


 素振りを終えたアインがそうぼやいた。


 それからリリィの魔術で水を浴び、渇かしてから黒衣礼服を身に纏う。


 ここで漸く日が昇る。


「アイン様は魔術の練習はなさらないのですね?」


「まぁな」


 剣術に対する執念が魔術に向けられると霧散する。


 とはいえ事情はある。


 禁術とアプローチが違うため、魔術に意識を割きすぎると勘が鈍るのだ。


 元よりアイデンティティにも似た禁術への信頼があるため多少の二足のわらじはこなせるが、


「本気全開で魔術を行使する」


 ということはちょっと想像が出来ない。


 それから朝の食事をリリィの家で取って、


「どうも失礼しました」


 と場を離れた。


 あまり長居しても精神的緊張が続くだけだろうとの判断だ。


 それからリリィと二人で市場をめぐって流動性を高める。


「緊張感はあれど下地が心許ない」


 とは鬼一の言葉。


 軍事的緊張感は脳の処理であって体が有機的に動くとは必ずしも言えない。


「私も徴兵されるでしょうか?」


「無いな」


 リリィに危機感にも似た不安をバッサリとアインは切り裂く。


 その根拠についての説明はしないし出来ないが、


「百の理屈より一つの断言」


 なんとなくで説得してしまうアインだった。


「アイン様は?」


「俺がって言うよりクイン家は出張るかもな」


 本来の魔術師の在り方だ。


 ホケーッとチョコレートを飲みながらリリィと雑談しているところに、


「やっほーアイン!」


「…………」


 厄介の大元が声をかけてきた。


 無論鬼一を通した思念チャットで。


 あまり聞きたくない類の声ではあるが、


「心頭滅却すれば」


 の心地で、


「何だ?」


 と返事をする。


「枢機卿としてのお仕事だ!」


「ガギア帝の首級でもとってくればいいのか?」


「それは後日として」


 後日にあり得るのか?


 表明はしなかったが少し冷や汗。


「アイス枢機卿に御用が」


「忙しいんだが……」


 喫茶店でのんびりしながら言うことでもないが。


「聖剣騎士団の指南。得意でしょ?」


「あー……まー……そう言うよな」


 歓迎事ではないが、


「じゃの」


 鬼一の声にはからかう様な含有成分があった。


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