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第161話:枢機卿の苦労07


 神都の一軒家をノックする。


「どちら様でしょう?」


「私ことリリィです」


「まぁ」


 と声を大にしてリリィによく似た大人の女性が出迎えた。


 リリィ。


 そして、


「こちらが恩人のアイン様にあらせられます」


「ども。よろしく」


 クイと頭を下げた。


「アイン様!」


 ひどく感銘を受けたらしい。


 目と口で丸を三つ作る。


「本当に素晴らしいほどの美少年であらせられますね」


「そう言いましたよ?」


 リリィの口からアインが美少年とは聞いていたらしい。


 別に困ることでもないがアインは背中が痒くなる。


 一応リリィが先にアインを実家に招く旨は伝えてあるが、それでもリリィとその家族にとっては戦慄と緊張の暴風だ。


「失礼一つに首一つ」


 とは貴族の救いがたい精神を指す。


 アインには縁遠い感情だが、リリィの家族にしてみれば慎重に運ぶべき事態であるのも事実。


「ようこそいらっしゃいました」


 リリィの父親が笑顔でそう言った。


 ダイニングで屹立して。


「まぁ無理にとは言わんが楽にしてくれ」


 意味が無いことを知ってはいるが、アインとしては他の言葉も選べない。


 無礼講を頭から丸ごと信じて無礼を働いて不興を買うというのは何時でも何処でも同じらしい。


「アイン様のおかげで私たちの一族は裕福に暮らせております。このお礼をどうやって還せば良いでしょう?」


「リリィがちゃんと働いてくれてるからそれ以上はないな」


 ヒラヒラと手を振る。


「恐縮です」


 これはリリィ。


「私どもの娘は役に立っておりますか?」


 ファーストワン。


 アインへの魔力供給。


「役には立っているが、そこは重要じゃないな」


 アインとしては別に魔術はそれほど必要でもない。


「娘が何か失礼を?」


 青ざめる父親に、


「いや、そうじゃなく」


 いつもの嘆息。


「あんたらは娘を可愛いとは思わんのか?」


「愛娘でございます」


「なら貴族にとっての役に立つだの立たんだのを基準として蔑ろにするな。貴族に媚びを売るのは精神の安定上必要かもしらんが、その結果として娘を道具扱いするのは親としてどうよ?」


「申し訳ありません」


「謝るならリリィにな」


「すまないリリィ」


「いえいえ」


 謝罪する両親に遠慮してリリィは両手を振った。


「アイン様には良くして貰っています。なお私などで役に立てるだけでも光栄なことと存じます」


 チラリとアインを見やる。


「それに私に命を与えてくれたお父さんとお母さんに恩を還元するに当たりアイン様のご威光を借りるという点ではこちらこそ申し訳ないもので……」


「気にするな」


 アインの簡潔な言葉。


「それより兄弟姉妹は隠す気か?」


「色々と慣れていないので失礼をするやもしれませんので……」


「大丈夫だ……って貴族が言っても説得力が無いよな」


 一般的事実だ。


 アインは例外だが。


「肩に力を込めるのはしょうがないとしても息子娘への配慮も忘れないでくれると嬉しいぞ」


 肩をすくめる。


「アイン様がそう仰るなら」


 そんなわけでリリィの兄と妹が現われた。


 当たり前だがどちらも魔術の素養は無いらしい。


「質素なモノで恐縮の限りですが……」


 リリィとその母親がダイニングテーブルに料理を並べる。


「豪勢だな。いつもこんなモノを?」


「いえ、その、アイン様の歓迎も込めまして」


「リリィの件もあるんだから我が家の愚父から金銭を取り立てて良いんだぞ? 俺が許す」


「神都に住まわせてくださっているだけでも感謝の極みにございます」


「まぁそういう他ないよな」


 へりくだりもしょうがない。


 一応アインにも周囲への配慮という意味での最低限の認識はある。


「仮に」


 とは思念による言葉。


 テーブルに立て掛けた鬼一法眼にだ。


「師匠に出会わなければこんな家庭が居心地良かったろうな」


「否定は出来んしする気も無いがの」


「まぁ無い物ねだりも非建設的ではあるが」


「そこを自覚しとるなら小生が言うことも無いじゃ」


「感謝はしてる」


「知っとるよ」


 呵々大笑する鬼一だった。


「飲み物は如何しましょう?」


「何でも構わんよ」


 ヒラヒラと手を振る。


 気安さの証明だ。


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