第16話:国家共有魔術学院09
男子生徒に連れられて辿り着いたのはサークル棟の裏手だった。
サークル棟。
魔術学院は名の通りに魔術を研鑽する学院だ。
が、それだけでやっていけるのは実は少数である。
何事にも娯楽が必要となる。
そのためサークル活動は必然起きる。
そしてサークルを管轄するために大きな建築物……通称サークル棟が存在する。
その北側。
太陽の当たらない方角にてアインは五人の男子生徒に囲まれていた。
五人は五人とも殺気立っていた。
「ツラを貸せ」
と言った男子生徒もここに含まれる。
「で?」
それでもなお気後れしないアイン。
「何の用だ?」
「要求は一つだ」
男子生徒が言う。
「アンネ様から離れろ」
「それは俺じゃなくてアンネに言え」
「呼び捨てるか貴様!」
別の男子生徒が吠えた。
「そもそもお前ら何よ?」
「アンネ様親衛隊だ」
「当然非公式なんだろうな」
「然りだ」
否定はしないらしい。
アンネの愛らしさを見れば、フリークの存在は理解できないわけでもない……と肯定するのも違う気はするが。
アインにとっては思惑外の感情だが予想は出来た。
「貴様なんぞがアンネ様と肩を並べる資格があると思ってか!」
「思ってねえよ」
事実だ。
ただし意味合いは逆だが。
「アンネは自分に相応しくない」
それがアインの意見だ。
ここで言うほど馬鹿でもないが。
「ゲラゲラゲラ」
鬼一が楽しそうに笑っていた。
「面白そうだな師匠」
愚痴の一つも出る。
「因果じゃの」
「さっきも聞いたが」
「どうする?」
「とりあえず交渉術に寄る和平的な状況脱出」
「話し合いに応じるかの?」
「知らん」
そればっかりは本音だ。
「そもそもにして」
嘆息。
「自称親衛隊に理屈が通るとも思わんしな」
「それもそうじゃの」
「師匠がどうにかしてくれたりは?」
「面倒じゃ」
あっさり言われる。
「それに五人程度なら問題はなかろう」
「目立ちたくないんだよ」
「じゃろうのう」
「状況打破のアイデア募集」
「知らぬ」
「師匠の役立たず」
「小生が居たから今のきさんが居るはずじゃが?」
「それについては感謝してるがな」
少なくとも世間に対してすれたのは鬼一に原因がある。
意識を鬼一から親衛隊に移す。
「要するにアンネを振れば良いんだな?」
「恋仲ではなかろう!」
「然りだ」
「よくもまぁそこまで傲慢になれる!」
「面の皮の厚さには自信があってな」
「戯れるか!」
男子生徒はナイフを取り出した。
もっともそれを言えばアインは帯刀しているのだが。
「切ったはったになるならこちらも手加減は出来んぞ?」
和刀……鬼一の柄を握るアイン。
それは親衛隊の気迫すら消失させる裂帛の気合いだった。
「ならば死ね!」
破れかぶれにナイフを振り回そうとする男子生徒。
そこに、
「待て!」
と第三者の声が響いた。
アインを含めてその場の全員が声のした方へと視線をやる。
「多数で一人を害するなぞ騎士道の恥と知れ!」
金髪の爽やかな印象を持つ青年がそんなことを言った。
手には片手剣。
「何だ貴様?」
男子生徒が問う。
「正義の味方だ」
青年はキッパリと言い切った。
「その正義の味方が何の用だ? 下手な干渉をしてくれるな」
「ならばナイフを捨てろ。威力交渉は交渉とは呼ばぬ」
「ならお前から死ねよ!」
男子生徒はナイフを片手に青年に襲いかかる。
が青年はその上を行った。
片手剣を両手で握り、
「疾っ!」
男子生徒のナイフを切り払う。
「このシャウトに刃向かうとはな」
青年……シャウトは片手剣を男子学生の喉元に突きつけてみせた。
「シャウト……っ!」
親衛隊員是全員が戦慄する。
アインは一人ついていけていなかった。