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第158話:枢機卿の苦労04


「まぁ焦ってもしょうがない」


 とは独創性のないアインの言葉だが、国際的状況を俯瞰で見た場合ある種の楽観論に相当するだろう。


「ガギア帝国の狂奔は日に日に密度を増している……らしい」


 そんな報告はノース神国の頭蓋にもたらされている。


「それは一大事だなぁ」


 のほほんと受け止めるアインであった。


 珍しく実家にいるため、リリィが久しぶりに洗髪および洗体を受け持った。


 ワシャワシャと綺麗にされて湯船に浸かる。


「極楽極楽」


「アイン様は心臓ですね」


「褒め言葉として受け取っておこう」


「あはは……」


 空笑いが本音を隠しきれていなかった。


「何か?」


「いえ、その、ガギア陛下のご乱心が」


「師匠が言ったろ? 心配すんな」


「そうですけど……」


「そんなことより風呂を楽しもうぜ」


「あう……その……」


「遠慮せずに言ってみろ」


「私の体を……楽しんでは貰えませんか?」


「貰えません」


 精神痛が頭部を襲った。


「まだ諦めていなかったのか」


「えと……はい……」


「まぁ立場に責任は付き物だが」


「はい」


「この場合に関しては踏み倒して構わんぞ?」


「お慕い申しておりまする」


「可愛い可愛い」


 クシャリとリリィの金髪を撫でる。


 まるでゴールドシルクのような鮮やかさだ。


 なお力強く、その点に於いては生命を感じやれる。


「ほんにお前は残念な」


「アイン様は色々な方に迫られておりますれば」


「あんまり思い出させないでくれ」


 頭痛。


 甘いマスクに冷美な精神性。


 とらえどころのない風のような優雅さは、時に、


「底知れぬ」


 とも評される。


 別にそんな大層な仕草を狙っているわけでもないのだが、他人は時にアインを羨望し慕情を向ける。


 自己評価は低いため、


「蓼食う虫も」


 と基準世界の言葉で皮肉るが、


「そっけなくされるほど燃える」


 という点では意外と恋される身分でもある。


 希代の美男子。


 大貴族の直系。


 勉学及び魔術ともに優等生。


 三本柱が揃えば、異性同性問わず惚れもするだろう。


 リリィもここに数えられる。


 アインは、


「義務感で事に当たっている」


 と捉えていたが、


「本気で惚れている」


 というのがリリィの本音だ。


「火遊び程度で構いませんので」


「俺を巻き込むな」


「?」


「火遊びなら一人でも出来るだろ」


「アイン様が見てくださるなら」


「…………」


 天井を透視して星空を見上げたい気分だった。


「そっちの趣味が?」


「アイン様さえ望むなら」


「俺の目の届かないところでなら幾らでも」


 他に言い様もない。


 特殊性癖に恵まれていないのは貴族としては珍しい。


「大丈夫だ」


「何がでしょう?」


「俺が家督を継げば、その際は家族共々生活を保障してやるから」


「甘えて申し訳ありませんがその通りに」


「任せろ」


「出来れば子を為して貰えれば尚いいのですが……」


「誰が心臓だって?」


「失礼しました」


 目礼する。


 アインは苦笑した。


「お前は良い子ちゃん過ぎる」


「そうでしょうか」


 この辺の自覚の無さはアインの自己評価と似たり寄ったりだろう。


 アインはくっくと笑った。


「なんなら親父を殺してすぐにでも家督を継いでやろうか? それなら安心だろ?」


「ご当主様を蔑ろにされては困ります……」


「いい子いい子」


 撫で撫で。


「ま、ままならないもんさ。俺も。ましてお前や、その家族もな」


「クインの御家に私は如何様に応えればいいのでしょうか……」


「ほっときゃいいんじゃね?」


 別にご大層な物ではない。


 アインにしてもあまりクイン本家は馴染みがない。


 数多くの時間を義父と義母と共に数えてきた身だ。


 政治的な事情には一切関与しない(というと身分的には嘘になるが)……というより興味が湧かない。


「せめておっぱいくらい揉んで頂けませんか?」


「頂けません」


 色々と残念な愛人だった。


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