第157話:枢機卿の苦労03
「真面目にやると馬鹿を見る」
アインがレイヴとの付き合いで学んだ事項の一つだ。
「やれやれ」
対処療法でいくため、とりあえずは休暇を与えられた。
神都。
そのクイン家。
宮殿から歩いて数刻の場所にある。
屋敷の書庫から本を取り出してペラペラと捲る。
禁術で。
空間固定と念動力。
ベッドに寝っ転がって宙に浮いている本がアインの読解に合わせてページを進めるのだった。
「きさんも器用じゃの」
「尊師の教えが良いんだろ」
「かか!」
ページが捲られる。
そんなことをしていると、
「アイン様」
扉がノックされた。
リリィだ。
「どーぞー」
ぼんやりと招く。
「失礼いたします」
キィと蝶番が鳴いて扉が開かれる。
金髪碧眼の美少女。
先述したリリィだ。
「どうかしたか?」
「お帰りになっていると聞いて」
「まぁな」
「今までどちらに?」
「秘密だ」
「ですか」
シュンとなるリリィ。
「お話は聞いてらっしゃいますか?」
「何の話だ」
「ノース神国とガギア帝国の戦争について」
「噂程度には」
ガッツリ関わっているが言っても詮方ない。
「貴族として戦場に立たねばならいのでは……」
「然程心配はしてないな」
不遜ではあるが事実でもある。
基本的にレイヴがいる時点でノース神国は安泰だ。
とはいえ結果には原因がいる。
その点で言えば貧乏くじを引くのはアインだろうが。
「大丈夫じゃよ」
鬼一が声で話した。
「鬼一様……」
「きさんの主を信じろ」
「えと……」
リリィがアインを見やる。
「不安か?」
「アイン様のお強さは存じております」
「ならいいだろ」
「けれども魔術に関しては……」
「まぁな」
そこは憂慮に値する。
あくまで、
「リリィにとっては」
と注釈も付くが。
別に気にするアインでもない。
「鬼一様はどう思ってらっしゃるので?」
「先にも言うた」
「あう」
そういうことだった。
「審問官や枢機卿もいるしな」
自分もその一人とは言えないが。
「少対多にはなりませんでしょか?」
戦術の基本は敵より大きな戦力を投入すること。
「これがノース神国でなければ」
ではある。
あらゆる意味で常識が通用しない国なのだ。
ノース神国は。
「リリィは敬虔な信徒か?」
「えと……人並みにはですが」
「じゃあ信仰しろ」
「?」
「愛は最後に勝つんだよ」
「愛……」
「神による人類愛だ」
薄ら寒いことは当人も自覚している。
元より、
「神の何たるか」
をアインは鬼一から聞いている。
その思考に沿って言うのならば、
「なんだかなぁ」
と憂鬱な気分だが、思考停止には丁度良い。
「神のため」
「信仰心故に」
「聖戦の大義が」
ことほど左様に人は神を生け贄に残酷さを正当化する。
鬼一にとってもあまり面白くはないのだろう。
その辺は徹底的にしつけられた。
「神の人類愛ですか……」
「ま、偏にな」
パラリとページが捲られた。
寝転がって読書。
とりあえずは対処療法。
であれば今のアインに出来ることはなかった。




