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第154話:背信の魔窟18


 もはや、


「瓦解」


 の一言だった。


 何をどうしてもアイスに一撃も届かない。


 剣も魔術も通じない。


 が、魔族としての本能が、


「敵を滅ぼせ」


 と背中を押す。


 そもそもにおいて、


「逃げる」


 という発想がない。


 剣聖。


 代行師。


 枢機卿。


 魔族にとって、


「存在許さざるべき者」


 の意味を持つ。


 既に半数が無力化された。


 残り半数の無力化も殊更述べるでもない。


 目と腱を切られて蹲るケイオス派。


 出血はかろうじて死に到らない程度だ。


 殺人御法度がこの際の限界だろう。


 うざったくはあっても不利になる条件でも無い。


 残る四人とあいなった……遠距離狙撃支援のケイオス派を駆逐するためアイスは跳んだ。


 一気に距離を詰めて似たような処置を施す。


 相手が逃げるという発想を持たないが故に事象の解決そのものは規定事項だ。


「懺悔するなら神の御許で」


 その言葉を最後に学院都市に潜むケイオス派は掃討された。


「案外少なかったな」


「まぁきさんが出本を断ったからの」


 学院長の脳髄を使った自動魔族召喚機。


 おそらく学院都市でケイオス派を量産し、亜種の魔法騎士団を創ってノース神国への足がかりとするつもりだったのだろう。


 とはいえガギア帝の声の及ばぬ学院都市の性質であったため魔族の方にもやりにくい印象は避けられない。


 とりあえず学院都市の魔族並びにケイオス派は駆逐したが帝都の状況は変わらず。


 何とも後引く納豆のような粘りけ。


「結局俺は帝都行きか?」


「じゃろな」


 鬼一としてもアイスほどフットワークが軽く、尚国家戦力に相当する人材は寡聞にして知らない。


 元より、


「代行師は化け物の魔窟」


 と一部で囁かれているがアイスはその筆頭だ。


 結果知り合って今までレイヴの好きにこき使われている。


「南無三」


 手を合わせて拝むアイスだった。


 礼服の袖で鬼一についた血を拭い取って鞘に収める。


「お疲れ様じゃ」


「給料も出ないのがなぁ」


 信仰心故の行動。


 そう見なされるため代行師としての活動に給料は発生しない。


 とはいえ代行師……枢機卿は別の形でお布施が入りはするが。


 実父のクインが聞けば卒倒するだろう。


 ノース神国が宗教国家である以上、王侯貴族も教義には逆らえない。


 その教義に於いて最高位である教皇と……最高顧問の枢機卿。


 その一角と来ればクイン家の家督より貴重だ。


 別にソレを誇るつもりはアイスには一切無いが。


「まぁ平和が一番だよな」


 全く説得力の無い言葉を吐いてアイスは教会に戻ろうとする。


 そこで喝采に襲われた。


 学院都市の市民たちだ。


「さすが剣聖!」


「神はおわしますのね!」


「ありがとうございます!」


「枢機卿の戦力に感服いたしました!」


 今の今まで魔族の影を畏れていた市民たちだ。


 枢機卿による都市の浄化。


 福音にも値する。


 結果ニュースは都市全域に波及し、お祭り騒ぎとなった。


 アイス自体は教会に引き籠もっていたが。


 それと並行して黒衣礼服を着て腰に和刀を差した少年……アインが黒髪をガシガシと掻きながらお祭り騒ぎに巻き込まれた。


 魔法騎士団に憧れた傭兵たち。


 魔術の最奥に憧れた学院の人間たち。


 それらが魔族と契約してケイオス派と成ったのは今昔物語。


 完全なる浄化の後には平和が到来する。


 その中でアインは時を待った。


 確認すべき事はあるが、とりあえず見届けるのも仕事の内だ。


 ノース神国から正式に派遣された審問官の一個小隊。


 殉職したコロネの葬儀。


「何をやってるんだろな」


 は心中での愚痴。


「今更じゃな」


 尊師のツッコミ。


「まぁ色々と」


「憎悪で剣を握ったにしては中々の冴えだったのう」


「あまりガラじゃないんだが……」


 アインは苦笑した。


「コロネの弔い合戦」


 とはいうが、そもケイオス派の無力化がコロネの欠落と同価とはとても思えないのも心の片隅にある。


「良い奴ではあったんだが」


「殉職じゃ。褒めて送り出せぃ」


「だな」


 死体は存在しない。


 アインが禁術で消し去った。


 であればアインにだけ最後を弔える状況ではあったのだ。


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