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第153話:背信の魔窟17


 包囲網は完全に崩れた。


 囲っていた一部のケイオス派を無力化して街路の端に立つ。


 そしてそのアイスの体がぶれた。


 残像となり、消え失せる。


 見失ったケイオス派たち。


「――――」


 動揺と混乱は戦場に於ける毒だが、そこまで講釈をたれる人徳はアイスにはない。


 低い姿勢で疾走し、一瞬で一番近いケイオス派の懐に。


 斬撃。


 腱を切る。


 その怪我が痛覚に変わるより速くアイスの身体は伸び上がった。


 続くは片手に持った鬼一。


 またクンと機動が変わる。


 伸び上がりから水平に。


 双眸を纏めて切り裂く。


 悲鳴は蹴撃と同時だ。


 光無き闇の中で吠えるケイオス派の鳩尾を蹴って次なるケイオス派に叩きつける。


「――――」


 バランスを崩したケイオス派は縮地で間合いを狭めたアイスを捉えられたか。


 アイスにしてみればどうでもいい案件だが、捉えているかいないかはこの際考慮の一片にも値しないだろう。


 認識が脳で処理されて、信号が体の隅々に行き渡って漸く『行動』という出力を起こすのが一般的な運動と言える。


 がアイスの速度はソレを凌駕する。


 結果ケイオス派の双眸はアイスを捉えたか否かの境界線で能力を失った。


 叩きつけられたケイオス派の質量も邪魔して反撃も出来ない。


 失明は行動の不能と同時だ。


 気付けば脚の腱を切られ立っていることさえ出来なくなった。


 気がかりに思うアイスでもない。


 残り八人。


 が、包囲網は崩され、アインは次なる相手を好きに選べる。


 魔術は霧散し、武術は比べるべくもない。


 それでもケイオス派の戦意が損なわれないのは偏に魔族の存在意義による者だ。


 人類の否定。


 あらゆる流血と殺戮の肯定。


 その天敵である代行師。


 剣聖ことアイス枢機卿。


 魔族としては駆逐せざるを得ない相手でもある。


「馬鹿だな」


 とはアイスの言で、


「仕方ないじゃろ」


 とは鬼一の言。


 もっと真っ当な思考を持てば復讐戦を狙って待避転進するのが常道だが、魔族はそのレゾンデートル故に無謀にも、


「アイスをこの場で駆逐する」


 以外の選択肢を持てない。


 アイスとしても、


「逃げられると面倒」


 なので状況について不満は無い。


 というよりケイオス派を掃討するためにアイスが出向いたのだから穴蔵から出てきて貰わなければ嘘ではあるが。


 魔術が襲う。


「遠距離四方」


 端的な鬼一の助言。


 アイスは立ち位置をずらして三つの魔術を回避して一つの魔術を切り捨てた。


 さらに視界内のケイオス派が都合八つの魔術を放つが、超神速のアイスの剣はその悉くを滅ぼし尽くす。


「お互い馬鹿見ていますね」


 アイスとしてのケイオス派へ同情の言葉。


 人類否定の魔族。


 魔族否定の代行師。


 ベクトルの向きは違うが総量に差異は無い。


 結果として大量生産された人類の脅威が一夜で潰えるというのだから魔族にしては、


「元が取れないこと甚だしい」


 との演算だろう。


 アイスが同情するのも無理はない。


 魔族に信仰は無いが、ある意味で殺戮が教義の代替とも言える。


 加速。


 一言で表わすに、


「疾風迅雷」


 その境地だ。


 当然、体を鍛えていても、剣の術理も精神性も鍛えていない傭兵の肉体能力では京八流には届かない。


 死神の風。


 振るわれる剣は音すら置き去りだ。


 ケイオス派の一人が失明する。


 それに悲鳴を上げるよりアイスの剣が脚を切る方が速かった。


 無力化されたケイオス派の悲鳴が響いてギョッとした別のケイオス派に躊躇無くアイスは襲いかかる。


 魔族と人族。


 これではどちらが悪辣か分かったものではない。


 その点はアイスもちゃんと汲んでいる。


 とはいえ反省するほど殊勝にもなれないが。


 残り七人。


 とはいえ烏合の衆。


 一匹の獅子に七匹の羊が挑むようなものだ。


「神のご寵愛あらんことを」


 加速。


 放たれた魔術をいなして斬撃を振るう。


 手に握った盾で傭兵の体を乗っ取った魔族がアイスの剣を防ぐ、


「――――」


 つもりだったのだろう。


 が奮闘虚しく。


 皮で出来た盾など易々と切り裂いて鬼一はケイオス派に襲いかかった。


 その根幹はアイスの武。


 サクリと盾を握る手を切り裂いて、


「――――」


 動揺激しいケイオス派の双眸をまた二つ切り裂く。


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