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第151話:背信の魔窟15


 月夜の優しい光。


 それと対称に炎熱の閃きがアイスを襲った。


 速度は弾丸のソレだが、アイスの抜剣はそれより早い。


 アンチマテリアル。


 魔術を使えないアイスに代わって魔術を行使する鬼一。


 結果、


「っ!」


 灼熱の炎塊は切り伏せられた。


 当たりがざわめく。


「ケイオス派は趣味の悪いことで」


 これは自身にではなく衆人環視に向けた言葉だ。


「ケイオス派」


 それだけで一般人は蜘蛛の子を、と散っていく。


 後に残ったのは傭兵たちだった。


 眼光に力ある者からない者まで。


「穏やかじゃありませんね」


 アイスの皮肉は余裕の表れだ。


 数えるに包囲されるだけでも十人強。


 さらに遠距離から魔術狙撃を試みている者が四人。


 後者は鬼一の知覚だ。


「ケイオス派もいつの間にやら慎重や自重を心の辞書に筆記するようになりましたか。いっそ賞賛に値しますね」


 人類の反動的存在であるため不審ではある。


 そもそも純粋な魔族であれ、ケイオス派であれ、人間に対するアンチテーゼは一種の絶対法則だ。


 アイスと傭兵。


 それから衆人環視。


 全員が殺害対象となっておかしくない。


 が、ケイオス派の傭兵たちはアイスだけを狙っている。


「さてどうしたものか」


 思念で鬼一に語ると、


「対処療法しかなかろう」


 厳しいお言葉を受ける。


「ですね」


 アイスは苦笑した。


 チャキッと和刀を鳴らす。


「傭兵さん。お逃げなさい。ケイオス派はどうやら私にご面会のようで」


「何を!」


 傭兵の気概はむしろ必然だ。


 ノース神国は枢機卿。


 いわゆる教皇の懐刀だが、ありがたい存在にも違いない。


 それを見捨ててケイオス派……引いては魔族に背を向けると云うことは信仰の道を外れることになる。


 その思考は自然だ。


 相手が相手なら、だが。


 アイスは穏やかに笑った。


「足手纏いです」


 笑顔の爽やかさとのギャップで一瞬何を言われたか判別のつかない傭兵。


 字面だけ読み込んで、理解し、


「そうですか……」


 それだけ。


 実際に無手で武装した傭兵さんを圧倒したのだ。


 そのアイスが剣を抜く相手。


「足手纏い」


 の評も暴論ではない。


 走り抜ける善良な傭兵を無視してケイオス派はアイスを包囲して見つめる。


 そのアイスは心眼で周囲に結界を張り、過不足なく現状を把握。


 十三人のケイオス派に囲まれて平然とする。


 それを虚勢と取るか余裕と取るかは人によるが、アイス自身の精神は現状で云えば後者に属する。


 四方から遠距離の魔術狙撃が行なわれる。


「来るぞい」


 鬼一の忠告。


 たった四文字だが、アイスにとっては福音にも等しい。


 結界の探知に引っかかった瞬間、


「――――」


 アイスの体がぶれた。


 瞬時の体さばき。


 四方からの魔術が散らされる。


 アイスの剣術と鬼一の魔術によって。


「――――!」


 そこから遅れて囲んでいるケイオス派が魔術を放つ。


「連携が取れてないこと甚だしいな」


「そう云ってやるな」


 アイスと鬼一の思念でのやりとりだ。


 本来なら遠距離狙撃と有機的にコンビネーションを絡ませるべきだった。


 相手がアイス枢機卿だと云うことを差し引けば、


「どうにか一手は取れたろうに」


 というのが師弟の感想だ。


 実際には禁術……レジデントコーピングがあるためアンチマテリアルがなくとも無病息災ではあるのだが。


 あまり禁術を表に出すのも気が引けるため、案外アイスは火急でなければ剣術で場を乗り切ってしまう。


 それも鬼一の教えだ。


 禁術は引き算で現象を発露する。


 結果世界を狭める特質を持つ。


 レイヴが存在するため非現実的だが、


「世界を滅ぼせる」


 という手段の一つなのだ。


 なお準拠世界は近代魔術に於いて、


「フラスコの世界」


 と呼ばれ、


「基準世界に準拠はしても、その本質は天動説」


 と相成る。


 魔術の普遍性もここに含有される。


 そうである以上、空には限りがあり、禁術による世界の対消滅は終焉への加速をもたらす。


 ある意味で魔族以上に世界に対する脅威と呼べるイレギュラー。


「まぁいいんじゃがな」


 とは鬼一の楽観論だった。


 であるが故にケイオス派の放った魔術を剣閃の連続でアンチマテリアルを乗せて無力化。


 結果として無病息災を体現する。


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