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第150話:背信の魔窟14


 名乗った男性は傭兵らしい。


 ギルドに属し、


「剣に覚えあり」


 とのこと。


「さいですか」


 とが心中のツッコミで、


「そうですか」


 が実際の言論。


 片手剣を右手に。


 皮の盾を左手に。


 それぞれ持って重心を低くする。


 膂力を溜めているのだろうが、勢圏はあまりに拙い。


 ほとんど肉体の力の要れ処で未来予知にも似た見分の出来るアイスだ。


 鍛錬の跡は見て取れるが、


「筋肉だけ」


 も本音だった。


 南無三。


 ダラリと両手を下げたまま、


「何時でもかかってきていいですよ」


 アイスは挑発する。


 当人は挑発とは思っていないが、


「まぁの」


 と鬼一も思うところはあるらしい。


「では、参ります」


 そして傭兵は駆け出した。


 間合いは五メートルと云った所。


 アイスならば斬撃の範疇だが、一般人には開いた空間だ。


「おおっ」


 振り下ろし。


「未熟じゃの」


 そんな鬼一の批評はともあれ、


「…………」


 スッとアイスは一歩踏み込んだ。


 傭兵の懐だ。


 それだけ剣撃が無力化する。


 振り下ろそうとした腕。


 その肘がアイスの肩を打つ。


 アイスはと言うと盾を握っている傭兵の左手……その手首を掴んで捻った。


 合気。


 呼吸を合わせて身体の支配権を奪う。


 傭兵の身体そのものが反転する。


 結果、


「げぶっ?」


 体の側面を地面に叩きつけられる。


 何が起きたのか。


 傭兵にしろ衆人環視にしろわかっていないだろう。


 何しろ一連の流れは寸秒で行なわれたのだ。


 アイスの思考で云えば、


『剣を振りかぶった傭兵の懐に入って攻撃を無力化。そこから反撃して傭兵の手首を掴み合気で押し倒した』


 となるが、傭兵と衆人環視にすれば、


「剣を以て枢機卿を襲った傭兵が倒れたと思ったら、その傍に枢機卿が立っていた」


 となる。


 別段手品の類は使っていないが、


「神秘」


 と云う意味でなら尊崇の対象であろう。


 剣を抜かず素手で剣士を仕留める。


 鮮やかな体術。


 理に沿った運動。


 剣の極みの一つ。


 故に、


『剣聖』


 なのだから。


「っ!」


 倒れたことを自覚した傭兵が立ち上がる。


 少しふらついていたが気迫はさっきより高まっている。


 無手を相手に遠慮があったのだろう。


 枢機卿を相手にすれば気後れ程度は一般的な信徒なら覚えて当然だ。


 斟酌するほど可愛い性格をしているアイスでもないが。


 残念無念。


 剣が振るわれる。


 水平だ。


 対するアイスの対処はあまりに粗雑だった。


 すっと片手を垂直に上げる。


 その手の甲が剣の腹を叩いて、斬撃線を狂わせる。


 上方に修正された剣閃をかいくぐって、


「…………」


 スッと手を軽装に添える。


 皮の胸当てだ。


 トンと押しやる。


 少しぶれるように体勢を崩した傭兵。


 その胸に当てたアイスの片手に、もう片方の手が添えられる。


 衝撃波。


 こう呼ぶと大層に聞こえるが、要するに、


「衝撃の波」


 という意味での攻撃の発露。


 京八流は無手の一種。


 鎧抜。


「が……は……っ!」


 手加減したため傭兵は倒れ伏すくらいで済んだが、全力で撃てば鎧越しに心臓すら止められる殺人の武だ。


 胸を押さえて苦しんでいる傭兵に一礼して、


「大丈夫ですか?」


 そう問う。


「ありがとうございました」


 やっとこさ出てきた言葉がソレだった。


 元より剣聖の胸を借りるという名目なので、それで漸く決着だ。


「さて」


 とアイスは意識を切り替えて抜刀した。


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