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第149話:背信の魔窟13


 宿主を失った教会。


 その薄暗い講堂に女性が一人現われた。


 白く長い髪。


 シルクに例えて不足でない淑やかなソレ。


 白く輝く瞳。


 パールをはめ込んだと錯覚させうるソレ。


 枢機卿にのみ与えられる戦闘礼服を着て、腰に和刀を差している。


 アイス枢機卿。


 剣聖の異名を持つ教義と狂気の体現者。


 ある種絶対の信仰の代替であり、神威の代行師でもある。


 魔族の絶滅とケイオス派の封印を主目的とする、


「神の力の顕現」


 に相違ない。


 和刀……鬼一法眼を腰に差して教会を出る。


 アイスの瞳に月が映った。


 ルナティック。


 狂気の産物であり、アイスにしろケイオス派にしろ寵愛の祝福と言えるだろう。


「おい……」


「あれ……」


「まさか……」


 教会を出て街路を歩いていると、市民がアイスを見やった。


 ざわめき。


 あるいはどよめきか。


 波紋のように広がる。


「ま、都合は良いな」


 思念でそう語る。


「じゃあなぁ」


 鬼一も同意見。


 アイスの名が広まれば、それは隠れているケイオス派を燻り出すのも簡潔に行なわれる。


「噂が噂を呼ぶ」


 という奴だ。


「あの……!」


 乳児を抱いた女性がアイスに声をかけてきた。


「アイス枢機卿猊下にあらせられますか?」


「ええ」


 零円スマイルで微笑む。


「是非ともこの子に祝福を……っ」


 抱いた乳児を示す女性。


「名は何と?」


「ウォルフと申します」


「良き名です」


 穏やかに笑うのも既に慣れた物。


「ウォルフ。あなたに主の祝福あらんことを」


 スッと一度だけ頭を撫でる。


 時間故に寝ている乳児ではあるが、


「…………」


 その寝顔がすこし穏やかになった。


「ありがとうございます」


 丁寧に母親は礼を言って離れていく。


「子どもねぇ」


「きさんもクイン家の世継ぎを生まねばならん立場じゃろ」


「アインに云ってくれ」


 色々と枢機卿としての矜持に反する会話だが、鬼一の思念チャットによる物だ。


「さて、とりあえずは慈善活動か」


「じゃな」


 剣聖枢機卿。


 ネームバリューとしては中々に重い。


 アイスに異論があれども。


「剣聖猊下!」


 また声がかけられた。


 男性だ。


 ガタイが良く、アイスより二回りほど大柄。


 手に剣を持ち、軽装の鎧を着ている。


「ケイオス派……じゃないな」


「真っ向から仕掛けはせんじゃろしな」


 アイスと鬼一の概算も尤もだ。


「何でしょう?」


 営業スマイルで問う。


「一手し合ってください」


「ふむ」


 スッと周りに視線を走らせる。


 衆人環視。


 時間が時間なため大人ばかり。


 なお半分は酒に酔っている。


 幼くして教皇のエースとなった美少女。


 剣戟の極致にして武の結論。


「その神業を見たい」


 と群集心理は言っていた。


「…………」


 ガシガシと後頭部を掻く。


「無意味な暴力は推奨できませんが……」


「ご指導願います」


 口が達者らしかった。


「そうですか」


 その悪辣さは不快ではないが、


「してやられたの」


 鬼一の皮肉も事実の一部。


「では」


 脱力して無形を取る。


「掛かってきてください」


 どうにでもなれと云った感想だ。


「剣は抜かないので?」


「必要ありません」


 不遜。


 自負。


 傲慢。


 どれでもありどれでもない。


 一番近い熟語を選ぶなら、


「消化事項」


 に尽きた。


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