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第147話:背信の魔窟11


 高級ホテルで引き籠りアインはレイヴと思念チャットをしていた。


 ネットワークは鬼一を経由。


「そっか。コロネが……」


 声質自体は淡泊だが、無念の寂寥が風となってレイヴの心象を凍えさせる。


「一応殉職になるのか?」


「だね」


「遺体を残すのも厄介だから纏めて処理したが早まったかね?」


「ううん」


 レイヴとしてアインの妥当性は肯定できる。


「死霊術の対象として主の御心に叛する行いを強要されるよりマシだと思うよ」


「主の御心ね」


 アインも聖句を口にして消滅させたが、


「すまんな」


 めずらしく謙虚だった。


「何か拾い食いした?」


「消すぞ」


「にゃは~」


 嘆息。


「こっちの監督不行き届きだ」


「アインの責任じゃないよ」


「良心が呵責を訴えることはしないが、それでも腕手の範疇に居る審問官を一人失うってのも……な」


「変なところで人が良いよね」


「褒めてないだろ」


 概ね何時ものやりとりだ。


「とりあえず審問官を小隊単位で送ってくれ」


「攻め滅ぼすの?」


「まさか」


 アインも別に国益で動いているわけではない。


 そもそもノース神国は聖地としての意味を持つため、侵略行為は受動的にも能動的に不可能だ。


「牽制。あるいは掣肘」


「あからさますぎない?」


 間諜としての審問官の派遣は行なっているが、大々的に動くとそれはそれで国際間に緊張が走る。


 その点についての危惧はむしろ当然だが、


「魔族の存在が濃厚すぎる。浄化の必要を申請する」


「……むむ」


「とはいえあくまで事後処理だ」


「?」


「小隊単位での審問官の派遣も時間がかかるだろ」


「だね」


「だからあくまで秩序維持の名目で送ってくれ」


「浄化はどうするの?」


「こっちでやる」


 ギシリとアインの歯が悲鳴を上げた。


「いい加減むかついてきたところだ」


 暗い部屋で尚淀んでいる黒瞳。


 憤怒と憎悪に彩られ、無形の圧となって空間を威嚇する。


 それは思念にまで及び、


「アーゲー……」


 無敵であるはずの教皇猊下すら気後れするほどだ。


「とりあえず」


 レイヴは言う。


「言いたいことは分かった」


「承認できないという意味か?」


「んにゃ?」


 ケロッと。


「猊下による浄化。ならびに審問官の派遣。妥当だと思うよ」


「ども」


「いや。気持ちは分かるから」


「それから剣聖の派遣を喧伝してくれ」


「そっちはすぐにでも」


「学院を通せば早いだろ」


「任せて」


「じゃ、情報供給はこのくらいだな」


「アイン?」


「どした」


「死んじゃやよ?」


 お前が言うか。


 とっさにそうツッコもうとして思いとどまる。


「善処する」


 ソレだけ言ってチャットを終わらせる。


「ふ」


 と吐息をついて水差しからコップに冷水を注いで飲む。


「案外冷静じゃの」


「精神修行を施したのはどなたでしたっけ?」


「ま、の」


 鬼一の方も心穏やかとはいかないらしい。


「こうなるとライトを置いてきたのは正解だなぁ……」


「リリィもの」


「なんやかやで愛されてるな」


「女の子にかや?」


「いや。しがらみに」


「身も蓋もないの」


「その点で言えば魔族とも仲良しになっておかしくはないが……」


「ある種きさんのしがらみの一番ではあるじゃろうの」


「基本的に営業はしてないんだがなぁ……」


「歩く広告塔が何を」


「…………」


 色々と反論できないアインだった。


 夜が更けていく。


「まったく忙しい……」


「生き急ぐというのも考え物じゃが」


「月と花を愛でて歌を詠い酒を呑む……か?」


「そっちを目指したつもりじゃが」


「まさかクイン家の没落ってレイヴが?」


「自覚的では無いにしても可能性の一片ではあろうな」


「…………」


 こめかみを押さえるアインだった。


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