第143話:背信の魔窟07
「ジリアとしてはどうしたいんだ?」
夜。
ジリアと教会で食事をしながらアインは尋ねた。
第一王女。
帝国の筆頭。
そして今は追われる身。
「この現状を変えたいです」
「というと?」
「ガギアの国を正常化すると言っています」
「帝室から逐われたんだろ?」
「まぁ」
「何故だ?」
「色々と……」
言葉を濁すジリアだった。
「これからどうするつもりだ?」
「ノース神国に救いを求めます」
「利敵行為じゃないか?」
「信仰有りきですので」
「立派だな」
嫌味でもある。
本音でもある。
そのどちらでもあるのだから、アインにとっては皮肉的というか、アンビバレンツな認識ではある。
「じゃあとりあえずそっちに行ってろ」
「そっちって……どっちに?」
「ノース神国」
「どうやって?」
「ディメンジョンジャンプ」
「?」
「瞬間移動」
「?」
「奇蹟の御業で送り届けるで良いか?」
「出来るんですの?」
「然程難しい案件ではないな」
「ではその通りに」
「後でな」
塩のスープを飲む。
とりあえず食事中くらいは安穏としたいらしいアインであった。
「アインは何故協力してくれるんですの?」
「コロネに徴発されたんで」
ポヤッというと、
「かか!」
大笑する鬼一だった。
テーブルに立て掛けている鬼一を蹴る。
「暴力反対」
「じゃかあしい」
思念での会話だ。
本音を言えば、
「枢機卿だから」
と相成るが、
「別に紋所の出番では無い」
のも承知している。
信仰をして教皇猊下の懐刀と呼ばしめるが、
「さほどかね」
がアインの本音。
「教皇猊下は御味方になってくださるでしょうか?」
「大丈夫だろ」
「その楽観論は何処から来ますの?」
「後ろ向きの思考はあまり好きじゃなくてな」
おかげで嘆息が増えるわけだが。
「ネガティブシンキングも場合によりけり」
そんなアインだった。
鬼一に会う前のアインならまた別の回答もあっただろうが。
もしゃもしゃと食事を取って神に祈る。
それからアインは教会の一室に魔法陣を布いた。
特に必要もないのだが、
「建前」
あるいは、
「言い訳」
そんな感じ。
「本当に大丈夫なんですか?」
ジリアは案外慎重だ。
「なら止めるか?」
別にアインにしてみればどっちでもいい状況ではある。
「行きますよ」
憮然としてジリアが呟く。
「行けばいいんでしょう」
「ま、神のご加護があらんことを」
心のこもってない祝福をした後、
「じゃあそこに」
とアインは魔法陣の中心を指差す。
そこに移動し、立つジリア。
「教皇にあったらアインの名を出せ」
「え」
「それで通じるから」
「何者です?」
「単なる一般人」
大嘘ぶっこくアイン。
いつも通りだ。
これで正常運転である。
鬼一の指導も良かれ悪しかれ。
「じゃ、教皇猊下によろしくな」
パチンと指を鳴らす。
禁術。
空間を破壊することで距離を縮める技術。
フツリと消えるジリア。
レイヴには既に了解を取っている。
「まぁこの程度は働いて貰わないとな」
決して復讐の意はないが、
「本当に?」
とただされれば、
「さて」
と呟くに留めるのもアインである。




