第141話:背信の魔窟05
「さすがに慎重にもなるらしいな」
「ここできさん相手に戦力を減らすのもうまくないのじゃろ」
「魔法騎士団ね」
戦力の補強という意味では何かと便利なのは認めざるを得ない。
術理にかなった手法。
「というには負債の方が重くないか?」
アインとしてはあまり有益には思えない。
時折チラリと殺気が向けられるが、襲われることはなかった。
「とりあえずは学院長室……か」
「審問官と合流せずしてかや?」
「アイツはアイツでどうにかするだろ」
絶対とは言い切れないが。
「じゃな」
「で、どうするかだが」
「学院長室」
「そうなんだが」
「ケイオス派の滅ぼしかや?」
「なんかこう探知機のような物はないだろうか?」
「あれば苦労はせん」
「然りだな」
対処療法オンリーということだ。
国家共有魔術学院でもケイオス派は存在した。
であればこちらでも似たようなケースはむしろ当然だろう。
「人さえ襲わなければどうでもいいんだが」
とはアインの言で、
「仮にそうなら魔族は無益じゃろ」
鬼一がツッコむ。
実際に帝都から学院街まで魔族の影がちらつく。
帝国の走りで山賊のケイオス派にも襲われた。
「もしかして魔窟か?」
そうも思いはするが、仮にそうなら色々と対処も必要だろう。
そのために学院長に面会を求めるのだから。
生徒の一人に聞いて学院長室まで案内させる。
「どうも」
とチップを払って生徒を解放。
それから扉を開けようとして、固定されていることを確認。
しょうがないので禁術を行使。
固定結界を一部解いて、
「失礼します」
と入室。
それから禁術で結界の綻びを取り繕う。
「ひっ!」
禿頭の老人が顔を真っ青にして怯えていた。
「何がそんなに怖い?」
まぁ中々に強固な結界を軽々と無力化されて入室してきたのだから恐怖の対象ではあろうが、
「ケイオス派か……!」
中々ユーモアのある怯え方だった。
「いえ」
とハンズアップ。
とりあえず嘆息。
禿頭の老人の言葉が嘘でないなら良識派と相成る。
「少し帝国の動きに不審がありまして」
「貴様審問官か!」
「違う」
嘘ではないが真実全てでもない。
「単なる間諜だ」
「どこからだ!」
「ノース神国。何でも聖地に攻め入ろうって?」
「帝室の問題だ! 私は何も知らん!」
「学院長なら声くらいかけられないのか?」
「学院長は失踪した!」
「…………」
沈黙。
まぁそうなる。
「お前は何だ?」
「学院長代理だ!」
「学院のケイオス派についてはどう思っている?」
「個人の問題だろう!」
「そうではあるが……」
あまり有益な人間でもないらしい。
そんなことを思うアイン。
「権力としてはどれほどのものだ?」
「無いに等しい!」
「ふむ」
しばし考える。
「学院都市の魔族殲滅を号令できるか?」
「無理だ!」
「本物の学院長なら?」
「可能だ!」
「さいか」
頭痛を覚えるのもこの際致し方ない。
「学院都市の代表として一つ仕事をしてくれんか?」
「何をだ?」
懸念。
「そう難しいことじゃない」
アインは肩をすくめた。
「ノース神国に審問官の派遣ならびに魔族の徹底討伐。国際情勢的にも可能だろう?」
「時間が掛かるぞ」
「いや掛からん」
「?」
「ここで首肯すれば後はこっちで何とかする」
「魔術か?」
「奇蹟だな」
鬼一が呵々大笑していた。
「どちらにせよ魔族の浄化は国際問題だろ?」
「ではあるな」
「では代行殿。ご英断を」
ほとんど脅迫にも近い形だった。




