第139話:背信の魔窟03
学院街を歩いて魔術学院に向かう。
途中でコロネと出会う。
いつも通りの審問官らしい姿だ。
もうちょっと融通は利かんのか、と聞きたいところだったが、おそらくだが利かないのだろう。
「何してんだ?」
声をかけると、
「ああ、アインですか」
こっちを認識したらしい。
「迷子か?」
尋ねる。
「そうなるのでしょうか……」
意外に力ない言葉が返ってきた。
「魔術学院に向かっているのか?」
「そのつもりなのですが」
どうにもこうにも。
そんな感じ。
「一種の禁足地じゃの」
「あー」
思念での会話。
アインも鬼一を基礎に知っている。
暗示の一種だ。
魔術的に座標を狂わせる術法。
「まぁ頑張れ」
心ない言葉を述べながらアインは学院に向かう。
「何か対策でも?」
「無いでは無いな」
「力を貸してください」
「報酬は?」
「神の祝福を与えます」
「要らんよ。そんなもの」
「此処で殺されたいんですか?」
「お前には無理だがな」
「…………」
「…………」
空気がピンと引き締まった。
殺意と害意が御濁して血の色になる。
次の瞬間、
「――っ!」
コロネは仮想聖釘を投擲した。
同時にアインの抜刀。
聖釘を弾く。
「本当に人間ですか?」
コロネの疑念も尤もだが、
「物理的には範疇だ」
アインの言も中々のもの。
一閃。
二閃。
三閃。
刃が閃く。
聖釘も光を反射する。
金属音が謳う。
弾き、弾かれる。
それが五手まで続くと、
「……っ!」
そこで決着した。
アインの和刀……鬼一法眼がコロネの首元に突きつけられる。
「まだやるか?」
いっそ脅迫だ。
「あなたは何者です?」
「アイン」
単なる座興者。
他に答えようも無い。
「教会に協力する約束ですが」
「そう言えばそうだったな」
今思い出した。
そうは言うが忘れていたわけではない。
単純に、
「面倒くさい」
が先にあっただけだ。
「で、結局学院にはどうやって入るんですか?」
「正面から。堂々と」
他に無い。
「しかし……」
結界の敷設。
それも事実だ。
しばし考えた後、
「手を出せ」
アインはそう言った。
「手……ですか?」
「ああ」
「はあ」
ぼんやりと応答して差し出されたコロネの手を、
「…………」
アインは無言で掴んで引っ張る。
「何を……?」
「学院に行きたいんだろ?」
「です」
「不肖ながらエスコートしてやる」
他に言い様もなかった。
アインのレジデントコーピングは精神面への不利益すら無力化する。
それは精神攻撃を防いだ春の一件で明らかだ。
であれば、
「この程度ならな」
との不遜も不遜にならない。
「何者です……」
「単なる浪人だ」
とりあえずはそういうことになった。
ちゃんちゃん。




