第135話:魔族が街にやってくる17
「ではケイオス派ではないと?」
「さっきからそう言ってる」
審問官であるコロネと冷静に話し合って理解を得るアインだった。
とはいえ自分の立場は明かしていない。
枢機卿。
アイス。
レイヴの思惑。
話せば面倒になるのは火を見るより明らかだ。
時間は未だ夜。
場所はアインの泊まっている宿。
「何者です?」
「ノース神国の貴族」
「何故この国に?」
「他国の魔術学院に興味があって」
嘘八百もいいところだ。
「むぅ」
さすがに頭から信じるのも不可能ではあろう。
が、当人の存在がアインの清い証明だ。
仮にケイオス派なら審問官であるコロネを見逃しもしなければ場を提供して話し合いもしない。
結果としてアインの誠実さ(というと胡散臭いが)については認めたようで警戒の視線はなりを潜めた。
「ノース神国の貴族……」
しばし考えるところがあるらしい。
「あなたも教皇猊下を慕っているのですよね」
「まぁ国民としては」
これもまた虚言。
「では疾く命じます」
「何でっしゃろ?」
「ガギア帝国の不審を一緒に正してください」
「何故?」
あまり面倒事には首を突っ込みたくないアインである。
「然もありなん」
といったところ。
「ガギア帝国が魔族と結託してる……かもしれません」
「そうなのか?」
思案にはあったとしても知らない振り。
「可能性ですが」
「はあ」
「なのでその真偽を確かめたいのです」
「ガギア帝に面会するつもりか?」
「真正面からいっても心地よい言葉で拒否されるだけでしょう」
「それは確かに」
だからこそアインも四苦八苦しているのだが。
「であれば周りからの制圧が回りくどいようで一番の近道と存じます」
「だな」
「付き合いなさい」
「俺が?」
「あなたが」
コロネの方は、
「然るべき」
との意見らしい。
「一人でやれよ」
アインの言葉もいっそ清々しい。
「ノース神国の危機なのですよ?」
「まぁ大事にはならんだろ」
そのためのアインであり鬼一でもある。
「ケイオス派の専横を見逃すのですか?」
「こちとら一介の市民だし」
嘆息。
「さっきから嘘をついてばかりだ」
そんなことも思う。
「やはりケイオス派……」
「だったらお前は死んでいる」
事実だ。
「むぅ」
「で、どうする気だ?」
「魔術学院に探りを入れます」
「問題が起きるなら帝都じゃないか」
学院に用があるのはアインも同じだが。
「そっちには別の審問官が居ますので」
要するに窓際族と言う物なのだろう。
あるいは貧乏くじ。
「お前も苦労してるな」
「信仰心あったればこそ」
「ですかー」
特に感銘も受けない。
そんな感じ。
「アイン……でしたか」
「だぁな」
「力を貸してください」
「見返りは?」
「ノース神国の安寧」
「気持ちは分かるがな」
嘆息。
「とりあえずは学院に用があるのじゃろ」
とは鬼一の思念。
「だな」
「では便乗するのも一手ではないかの」
「軽く言ってくれる」
しがらみをうざったく思うのはアインの根幹だ。
とはいえ鬼一の言にも傾聴すべき処はある。
「問題は」
アインの皮肉。
「魔族の何処までが関わっているか」
「じゃの」
その辺は鬼一と思念を同じくする。
国家レベルか軍隊レベルか。
「何だかなぁ」
他に言葉もなかった。




