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第132話:魔族が街にやってくる14


「お強いですな」


 再度酒場に入ってチョコレートを頼むと店主が賞賛してくれた。


「見えたのか?」


「それなりに」


 中々どうして抜け目ない。


「初めて見ました。居合い……と申しましたか?」


 納刀から始まる剣撃。


 抜刀術とも呼ばれる。


「だぁなぁ」


 特に自慢の種でも無い。


 アインにしてみれば今更だ。


「やはり魔法騎士団に?」


「初耳だからなぁ」


 予定はない。


 が、把握は必要だろう。


 そう言うと、


「魔術師でいらっしゃる?」


「何でだ?」


「いえ。魔術に興味がないようなので既に会得しているのかと」


 あまりに基礎だが、


「選ばれた力」


 という意味ではこの世界の魔術はソレに該当する。


 一般人が羨んでも得られない神秘。


 その反動としてケイオス派が居るとなれば飲んでいるチョコレートも苦くもなるが、


「魔術の才能は持ってないんでな」


 とりあえずそう答えておく。


「ふむ」


 勘案するような視線だった。


 劣情が混じっていない分、絡んできた傭兵よりは誠実だが。


「多いのか?」


「とは?」


「魔法騎士団とやらに身を置きたがる傭兵や冒険者の類だ」


「そのような抱負は聞きますね」


「アイツらみたいにか?」


 カウンター席で振り返りもせず親指で指し示す。


 酒を飲み直している男色傭兵たちだ。


「魔術を使える……というのは何かしら栄光ですから」


 グラスを磨きながら店主は答えた。


「さいか」


 あまり共感できかねる。


 ある種の自負がアインに囁いていた。


「ここに来るまでにも魔族とケイオス派に関わったしの」


 思念で鬼一が語りかけてくる。


「そう言えば」


 とアイン。


「関係性が?」


「さての」


 論拠と言うには頼りない。


 鬼一が明言を避けるのも致し方ないことだ。


「魔術学院の姿勢も聞いておきたいところだな」


「じゃの」


 だいたい似通った意見らしい。


 魔術学院自体は研究機関だが、その生徒ならびに教授格は立派な戦力でもある。


 そも、そのために創られたのだから。


「とすれば」


 とチョコレートを飲む。


「そっちの意向があっちの意向と同一か……だな」


「むぅ」


 珍しく歯切れの悪い鬼一。


 魔術師が剣を握るのか。


 剣士が魔術を修めるのか。


 どちらも一般的には一笑に付す類だが魔法騎士団とやら自体は既に存在して戦果を上げている。


 それこそが悩ましい師弟だ。


「妄言で済むならソレが一番」


 楽観論ではあるが、面倒がないに越したことはない。


 無念。


「下手すりゃ一国相手に喧嘩するのか?」


 あまり楽しい想像ではない。


 がアインは枢機卿。


 教義の遵守は最優先事項だ。


 仮にケイオス派がいるなら無力化せざるを得ない。


 並びに魔族が関わっているなら滅ぼす必要がある。


 二つの仮説の内、後者が事実ならそれ相応の浄化手段も必要とする。


 前者ならまだ救いはある。


「あくまで個人的な範囲でなら」


 と留意事項はあるが。


 どちらにせよガギア帝国がノース神国に攻め入ろうと言うのなら、教皇の魔術特性が発露し、結果として顎で使われる運命だ。


「…………」


 形而上で頭痛を覚える。


「まずは魔術学院の動向じゃの」


 鬼一が提議した話題はアインの気を逸らせるためだ。


 アインの方もその意図は読み取れる。


 悩んで解決する事案は数少ない。


 ソレは尊師である鬼一法眼から教えられている気構え。


 解決には分析と行動をこそ必要とする。


 分析と懊悩はしばしば隣り合わせだが、この際の混同は悪手でもあった。


「今日の処はこの程度だな」


「んじゃんじゃ」


 鬼一の肯定を得てアインは席を立つ。


「世話になった」


 店主に礼を述べる。


「また何時でも」


 朗らかに店主は見送った。


「それでは」


 特に芸のない言葉を発して夜気に身をさらすアインだった。


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