第130話:魔族が街にやってくる12
風聞とは言え、
『魔法騎士団』
なるものが店主の云うとおりに即席の急造部隊ならアプローチは二つ。
一つは魔術師を武装させる。
一つは傭兵や騎士に魔術を修めさせる。
前者なら可不可を問うなら可だ。
「現実性を無視すれば」
と注釈はつく。
貴族の血統が魔術素養の根幹であれば直系は血脈を保つため魔術の研鑽に当てられるが、傍系親戚の類はその素質を国やギルドに買われる。
クインの家も貴族としての発言力の下地に血を分けた攻撃的な魔術師を抱えているし、そのためノース神国での発言力も高い。
となれば同じようなことをガギア帝国が行なっても不思議ではない。
どころか事実だ。
国家にとって魔術は政争にも必要なカードであるため大切に扱われる。
が、その魔術師を騎士団として運用するというのなら、話は異になる。
魔術師を魔術師として運用するならまだわかる。
貴族主義の蔓延する魔窟であるため、色々と派閥や闘争も起こるし、栄光や名誉にもうるさくはなる。
とはいえ傍系であれど貴族は貴族。
魔術の素養が希少であることに違いはない。
間違ってもソレを以て急造部隊とすることは有り得ない。
今回の件に於ける思惑で、
「有り得ない」
は禁句であるため、候補の一つには加える。
が、
「現実的とは言えんの」
鬼一の零した言葉も真実だ。
「じゃあ後者か?」
アインが問う。
傭兵や騎士に魔術を修めさせる。
その可能性。
「…………」
珍しく口の減る鬼一。
考えは師弟で同じらしい。
そもそも教えて出来るなら苦労はない。
そんな感じ。
貴族にしか使えない魔術を急造部隊に施す。
「となれば……」
チョコレートを飲む。
苦い。
「ケイオス派……じゃの」
そういうことになる。
魔族。
人類の否定命題であり人を襲う概念。
時に人と寄り添い魔術を授ける。
邪神教の崇拝を受ける身ではあれど、唯一神教に於いては罪悪の一つだ。
なおケイオス派は才能がない人間が魔術を得る手法の一つでありはするが、ぶっちゃければ両刃の剣。
契約した魔族にじわじわと自我を乗っ取られる。
結果受肉した、
「亜魔族」
とも呼ばれる存在に堕する。
文明に傷を残すアホウな現象であるため、中々に教会も手を焼いているが、犯罪者の類は根絶できないのが人類の因業。
こればっかりはしょうがない。
閑話休題。
つまり魔族を召喚して騎士や傭兵に片っ端から契約を行ないケイオス派の急造部隊を創設する。
「可不可を問うなら」
「可じゃが……」
有り得ないは禁句であれど、予想としては前者と同等かそれ以上に信じ難い。
魔族に意識を乗っ取られたケイオス派は無差別に人類を襲う。
そんな輩を国内に取り込めば獅子身中の虫を自ら再現するようなモノだ。
まず真っ先のガギア帝国が滅びる。
軍備の状況と照らし合わせれば一部腑に落ちはするが、
「自己破滅を促して帝室は何がしたいのか?」
これはアインと鬼一の共有する処だ。
「どちらも駄目だな」
「じゃの」
とはいえ風聞がこっちまで聞こえる程度の事態は起こりえている。
「有り得ない」
と一蹴するのは簡単だが、この場合では思考停止と等式で結べた。
チョコレートを一口。
「ライトを置いてきたのは失敗だったか」
そうも思う。
アイス枢機卿と密に連絡が取れる数少ない審問官だ。
レイヴが間諜として審問官を何人か派遣しているのは聞いているが、アインと連携を取れる類のものではない。
「ま、嬢ちゃんの特性を考えればきさんが動かずとも審問官が解決するかもの」
「そっちが楽で良いな」
無論冗談の類だ。
数パーセント本音は混じっているが。
別にノース神国の危機については案じていないが、
「結果には原因が必要」
とのレイヴの言葉がこだまする。
「頭の痛い案件だ」
「苦労性は美徳じゃのぅ」
「はっはっは」
チョンチョンと柄頭をつつく。
悪意の伝播だが、そんなことで堪える鬼一でもない。
それはアインもよく知るところだった。
「さてどうするか?」
チョコレートを飲みながら展望を考えていると、
「おい坊ちゃん……可愛い顔してるじゃねえか」
「…………」
あまり聞きたくない声がアインにかけられた。
呵々大笑する鬼一の柄頭がつつかれる。




